「沙羅」


 ともちゃんの声。


「もう!  私にゴミ箱押し付けて! 気持ちはわかるけどさ」


 おどけたように言って見せるともちゃん。


「何、沙羅、泣いてるの?」 

「え?」


 私は知らぬ間に泣いていたようだ。


「えっと、沙羅にはどうでもいいかもしれないけど、葵君、振ったよ、あの子」

「……うん、あの子が泣きながら走って行ったの見た。ともちゃんは葵君が振るのをちゃんと見たんだね」

「うん、見ちゃ悪いかなとも思ったんだけどね……」


 ともちゃんは複雑そうな顔をしてそう言った。


「沙羅、泣いてる割りにすっきりした顔してるけど?」


 ともちゃんが不思議そうに私を見る。


「うん」


 私は一度深呼吸をした。そんな私をともちゃんが真面目な顔になって見た。


「ともちゃん。あのね。ごめん、私、ともちゃんのこと、応援できそうにないや」

「え?」


 驚いたともちゃんの顔。


「私、葵君のこと、諦めるの無理だ。やっとわかったよ」


 私の言葉にともちゃんは久しぶりに晴れやかな笑顔を見せた。


「ふーん。いいんじゃない? じゃあ、私たちはライバルだね」

「うん。そうだね」

「ふふっ」


 ともちゃんが笑う。


「どうしたの?」

「いや、やっぱりなと思って。バカだね、沙羅は。遠回りし過ぎだよ」

「そうだね。ほんと、私、バカだよ」

 ともちゃんはわしゃわしゃと私の頭を撫でた。


「でも、よかったよ。沙羅が自分の気持ちにちゃんと向き合えて。このまま諦めてたらきっとこの先後悔してたよ?」

「本当、そうだね」


 ともちゃんの優しさに胸がじんとする。また涙が溢れた。


「泣き虫沙羅」

「だって、ともちゃん優しいんだもん」

「私はいつだって優しいけど?」

「そうかな?」

「そうだよ!」

「そうだね、うん」


 私とともちゃんは笑い合った。


 葵君を避けるようになって、いつももやもやしていた。それが一気に晴れて、久しぶりに心が軽くなった。

 私はともちゃんに感謝した。

 そして、今の気持ちを大切にしようと思った。