その時、後ろから人が走ってくる足跡が聞こえた。

 すれ違う際に横顔が見えた。先ほどの女子だった。

 彼女は泣いていた。


 葵君、振ったんだ。

 安堵してしまう自分は酷いかもしれない。

 あの女子は私と同じだ。葵君に恋焦がれて、想いが遂げられなかった。未来の私の姿かもしれない。

 葵君は私とは違う。夢に向かって確実に進んでるし、平凡な私とは違う世界に住んでいる。それは悲しいことだけれど。

 でも。

 そうだ。ともちゃんの言うとおりだ。

 私はその現実から逃げようとしていた。

 そんなの本当の好きじゃない。

 私は葵君より私を優先していたんだ。葵君を想う気持ちより、自分が傷つかないことを選ぼうとしていたんだ。

 ともちゃんは、葵君を好きなだけでいいと言っていた。


「私だって葵君が好き。昔からずっと本当は大好きなんだもん」


 言葉が漏れて、私は自分の気持ちをはっきりと自覚した。


 そうだよ。

 私は葵君が好き。それだけでいいじゃないか。

 なんでこんな簡単なことがわからなかったんだろう。

 答えはとっくの昔から出ていたのに。私はなんて回り道をしちゃったんだろう。

 自覚したとたん、頭がすっきりした。なんだか視界があけるような、不思議な感覚。