それからの私は葵君を忘れるように葵君を避けた。

 ともちゃんは納得がいかない顔をして、私に責めるような目を向ける。


「沙羅、いつまでこんなこと続けるの? 最近の王子が元気ないの、沙羅のせいなんじゃないの?」

「そんなことあるわけないよ。私じゃなくて、スケートで何かあったのかもしれないね」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。


「そうだったら、ますます沙羅は元気付けなきゃいけないんじゃないの?」


 ともちゃんの声は逆に熱い。


「どうして私が? 私に王子を元気付けるなんてできないよ?」


 あくまで他人行儀に言う私に、ともちゃんは顔を歪める。


「沙羅、最近、王子を王子って呼ぶんだね」


 私はともちゃんの方を向く。ともちゃんの目は悲しげだった。


「王子だから王子って呼んじゃいけないの? ともちゃんだって王子って呼んでるよ?」

「私、最近、沙羅がわからない。まだ王子が好きなんでしょ? なんで王子が悲しむことするわけ?」

「もう好きじゃないよ」


 私は自分に言い聞かせるように言った。


「嘘! 沙羅は本気で王子が好きだよ! 王子が小さなときからずっと好きだったんでしょ?! そんなに簡単に気持ち変わらないよ!」

「ともちゃんこそ、なんでそんなに熱くなってるの?」

「私はっ!」


 ともちゃんが怒りに顔を赤く染めた。


「自分を偽って何になるわけ? それとも王子を傷付けて気を引こうとしてるの?」


 ともちゃんの言葉に一瞬唖然とする。


「そんな! 気を引くとか、そんな余裕、私、今ないよ! 考えたこともない! 私は王子を忘れようとしてるだけ!」

「……ふーん」


 ともちゃんはちっとも納得がいっていない目でそう言った。


「急に忘れようだなんて、やっぱり何かあったんじゃないの? 私にも言えないの?」

「何かがあったわけじゃない。ただ、思い知ったの。私と王子は違う世界に住んでるんだって。決して手の届かない人だって」

「だから諦めるの? ううん、逃げるの? 王子から。自分から。そんな程度の想いだったんだ?」


 私は唇を噛んだ。

 決してそんな程度なんて言われたくない想いだけど、私は何も言い返せなかった。私は葵君より自分を選んだのだ。