その日見た夢は。

 まだ小さな葵君。


「ぼくのゆめはオリンピックに出て金メダルをとることなの」


 はにかみながら私にこっそり告げた葵君。


「さらねえちゃんはピアニスト? になるの?」

「うん! あと、あとね、あおい君のおよめさんになりたいな」

「およめさん?」

「うん、けっこんするとなれるの」

「けっこん?」


 葵君は切れ長な目を大きく開いた。そして恥ずかしそうに笑ったんだ。


「いいよ、ぼくのおよめさんにさらねえちゃんをしてあげる」

「やくそくね」

「やくそく」

『ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます! ゆびきった!』


 私は自分の涙の感触で目を覚ました。

 そうだった。昔そんな約束をしたのだった。

 でも。私の夢はどちらも叶わない。

 涙は止まることがなく、私の枕を濡らし続けた。