いつの間にか私の目には涙が溜まっていた。それがこぼれないように上を向いて手で拭った。


「日向先輩!」


 リンクから少し離れた席で見ていた私に気付いた葵君がやって来た。


「見に来てくれたんですね! 嬉しいな!」


 練習していたからか、頬を上気させて、葵君はニコっと笑った。

 笑うと葵君は幼くなって、まるで女の子のように可愛い。それは昔と変わらなかった。

 でも今の葵君は内気ではないし、整った顔と日本人離れしたスタイルは、みんなが王子と呼ぶのにふさわしいオーラを放っている。


「日向先輩? 今なら学校の子たちいないから、沙羅さんでいい? 沙羅さん?」

「……」


 答えられない私に葵君の笑顔が消える。


「どうかしたんですか、沙羅さん」


 私はぼんやりと隣に座る葵君を見た。葵君の整い過ぎた顔が身近にある。

 葵君はこんなに素敵なのに私はちっとも素敵じゃない。ごく普通の女子だ。

 私は勘違いしそうになっていた自分を恥じた。私が葵君の特別になれるわけないんだ。