六月に入り、雨が増えた。もうすぐ梅雨に入るのだろう。
しとしとと降る雨の中、傘をさして高校から最寄の駅まで歩いていたときだ。
「日向先輩!」
パシャパシャと濡れた地面を走る音が近づいてくる。
すぐに葵君の声だと分かった。
振り返ろうとしたときには葵君はもう私の傘の中に入ってきていた。
「入れて下さい」
耳元で言われて頬がかあっと熱くなるのを感じた。
当の葵君は私の持っていた傘を、
「僕が持ちますね」
と何気ない素振りで持った。 葵君の、男子にしてはほっそりとした長い指が、私の目の前にある。
どきどきする。
私の肩が葵君の腕に触れていて熱い。葵君の体温が私の肩から伝わって全身を巡るような錯覚を覚え、くらくらした。
「か、傘、忘れちゃったの?」
自分を保つために声を出した。
葵君はくすりと笑って、
「実は持ってます」
と言った。
「え?」
「相合い傘ってなんだか秘密っぽくてよくないですか?」
私は困惑した。心臓がうるさい。葵君に聞こえたらどうしよう。
「傘で見えないから僕だって分からないし、沙羅さんとはこうして話せるし……」
「そ、そうだね」
体が硬直しそうになる。止まっているわけにはいかないので足を踏み出す。
葵君の歩みはいつもより遅い。私の速さに合わせてくれてるんだ。そんな些細なことが嬉しい。
嬉しいけど、困ってしまうほどにどきどきが止まらない。
「何より、やっぱり相合い傘っていうのがいいんですよ。特別な感じがしませんか?」
葵君は楽しそうに笑っている。
なんて返していいか分からず黙っている私に、葵君がこちらを向いた。
しとしとと降る雨の中、傘をさして高校から最寄の駅まで歩いていたときだ。
「日向先輩!」
パシャパシャと濡れた地面を走る音が近づいてくる。
すぐに葵君の声だと分かった。
振り返ろうとしたときには葵君はもう私の傘の中に入ってきていた。
「入れて下さい」
耳元で言われて頬がかあっと熱くなるのを感じた。
当の葵君は私の持っていた傘を、
「僕が持ちますね」
と何気ない素振りで持った。 葵君の、男子にしてはほっそりとした長い指が、私の目の前にある。
どきどきする。
私の肩が葵君の腕に触れていて熱い。葵君の体温が私の肩から伝わって全身を巡るような錯覚を覚え、くらくらした。
「か、傘、忘れちゃったの?」
自分を保つために声を出した。
葵君はくすりと笑って、
「実は持ってます」
と言った。
「え?」
「相合い傘ってなんだか秘密っぽくてよくないですか?」
私は困惑した。心臓がうるさい。葵君に聞こえたらどうしよう。
「傘で見えないから僕だって分からないし、沙羅さんとはこうして話せるし……」
「そ、そうだね」
体が硬直しそうになる。止まっているわけにはいかないので足を踏み出す。
葵君の歩みはいつもより遅い。私の速さに合わせてくれてるんだ。そんな些細なことが嬉しい。
嬉しいけど、困ってしまうほどにどきどきが止まらない。
「何より、やっぱり相合い傘っていうのがいいんですよ。特別な感じがしませんか?」
葵君は楽しそうに笑っている。
なんて返していいか分からず黙っている私に、葵君がこちらを向いた。