王子様はみんなの王子様であって、特別な女の子がいてはならないのだ。女子にとっては。

 葵君の彼女になる人は大変だな、と思って、次の瞬間私は悲しくなった。

 私もみんなと同じだ。やっぱり葵君に彼女ができるのは嫌だ。

 自分が彼女になりたいなんて恐れ多いことは思えないけれど、葵君が誰かの彼氏になんかなったら嫌だ。

 でも。

 そしたら葵君はいつまでも一人きりなのかな。それもなんだか葵君が可哀想に思えた。

 女心は複雑だ。


「でも沙羅みたいに王子に本気な女子ってどれくらいいるんだろうね? みんな王子、王子言ってるけど他に本命がいるんじゃない?」


 ともちゃんが言った。

 確かにそんなものかもしれない。それでも葵君に特定の人ができると、その子達も良くは思わないんだろうなあ。


「……私は好きな人いるし、王子は王子、だけどね」


 ともちゃんが他人事のように思えるのはそのせいかもしれない。

 私もそうだったら気が楽だったのかなと思って、いや、違うと思い直した。

 片想いは例え相手がどんな人であろうと切ないのには変わらないのだ。ともちゃんだってそうに違いない。


「まあ、気にしすぎるのもよくないし、沙羅は沙羅らしくしとけばいいよ」

「気にしないのは難しいけど、そうするしかないね。頑張る」


 私は無理に笑ってみせた。



 新緑が眩しい五月はあっけなく過ぎて行った。

 あの日から葵君と二人で会う機会はなく、私はホッとしたような、もの足りないような、寂しいような気持ちで毎日を過ごした。

 まるで葵君がうちに来た日が遠い昔のように、夢だったのではとさえ思える。

 でも仕方ない。葵君は学校前の朝も学校後の夜もスケートの練習をしているのだから。

 学校でたまに挨拶を交わす時だけが私の至福の時になった。