あの日、母が電話で話しているのを盗み聞きしてしまった日から、私は極度のスランプ状態に陥った。


絵を描いていても全く楽しくない。

それどころかずっと苦しくて、ふとしたときに泣いてしまいそうになる。


前とは違い、頭の中を占めるのは母の言葉。

大好きな海の景色を描いていると、ふと思い出す。



『美波は絵を描くことに向いてないわ』



それはまるで呪いの言葉で、自分が必死に描いてきた絵すら酷いものに見えるようになった。


だから新しく絵を描くことも苦しくて、何度も何度も手が止まる。


努力したって仕方がない。

だって私には絵を描くことなんて向いてないから。


それに結局、私が目指してるのは他人の真似事みたいなものだ。


松浦くんの絵に追いすがっているだけ。

そんな私が頑張ったって意味ない。

時間の無駄。

全部無駄。


そう思ってるのに、わかってるのに、意地でも美術部を休むことはしなかった。


休んでしまったら本当に負けてしまう気がして。

辛いけど、苦しいけど、部活に参加するからには少しずつでも絵を描き続けた。


絵を描くことが得意だって、向いてなくなんかないっていつか言ってやりたいって、まだ心の底では諦めきれてないから。