ただ唯一、帆高の手元に彼女が残してくれたのは、たった一通の手紙だった。仕事用のかばんの中にしまい、時々読み返してはあの頃を思い出し、涙を流す。
その時に思うのだ。あの日から何年経っても、結婚をして子どもができても、彼女が大切な人であることに変わりはないのだと……。
「ねえ、お父さんがお医者さんになろうって思えた人ってどんな人なの?」
興味津々、といった雰囲気で仁が訊ねる。帆高は優しく微笑み、仁の頭を再び撫でた。そして海を見て、彼女の笑顔を思い浮かべながら言う。
「そうだなぁ……。誰にも縛られなくて、自分が辛い時でも笑ってて、優しくて、強いようで弱くて、人魚姫みたいにいなくなっちゃった人なんだ」
「そっかぁ。お父さん、その人のこと好きだったんだね」
ふと、彼女の「好き」と初めて言われたことが頭に蘇り、目に溜まった涙が溢れてしまいそうになる。ふと耳に、彼女の声が聞こえたような気がした。
その時に思うのだ。あの日から何年経っても、結婚をして子どもができても、彼女が大切な人であることに変わりはないのだと……。
「ねえ、お父さんがお医者さんになろうって思えた人ってどんな人なの?」
興味津々、といった雰囲気で仁が訊ねる。帆高は優しく微笑み、仁の頭を再び撫でた。そして海を見て、彼女の笑顔を思い浮かべながら言う。
「そうだなぁ……。誰にも縛られなくて、自分が辛い時でも笑ってて、優しくて、強いようで弱くて、人魚姫みたいにいなくなっちゃった人なんだ」
「そっかぁ。お父さん、その人のこと好きだったんだね」
ふと、彼女の「好き」と初めて言われたことが頭に蘇り、目に溜まった涙が溢れてしまいそうになる。ふと耳に、彼女の声が聞こえたような気がした。


