「蒼井って、ちゃんと家に帰ってるの?」

「俺が帰るのは駅前のネカフェだし」

「家に帰らなくて平気なの?」

「べつに」

そういえば前に、自分の家のことをひどく毛嫌いしてる様子があった。ずっと自分のことで手一杯だったけれど、彼について知りたいと思い始めている。

「蒼井は現実でもそんな感じだったの?」

「なにが?」

「いや、誰とも群れないっていうか、一匹狼みたいに振る舞っていたのかなって」

「高校ではそうだけど、それ以前の中学までは普通に友達らしき人はいたよ」

「え、蒼井に友達? なんかあんまり想像できない

「想像しなくていい」

彼は少し照れていた。私は今の蒼井しか知らないけれど、友達とバカなことをして遊んだり、無邪気な顔をもつ彼も昔はいたのだと思う。

「どうしてひとりでいるようになったの?」

「俺は離れていくやつは追いかけない。それだけのことだ」

「そうやってさらりと言うけど、それができるってすごいことだよ。私も蒼井みたいな強さがあったら、もっといろんなことを踏ん張れたかもしれないよね」

家族のことも友達のことも自分自身のことも、なにひとつ向き合わずに私は逃げた。

頑張ってもどうにもならない。どうにもならないから頑張らない。そうやって諦めたつもりになっていたけれど、本当は心の中では譲れないことがたくさんあった気がする。

「……屋上から飛び降りたこと、後悔してんの?」

ドキッとした。やっぱり彼にはすぐに見透かされてしまう。

「まさか」

私は誤魔化すように、笑った。

後悔はしてない。だって私は衝動的に死を選んだわけじゃない。

それは悩んで、悩んで、悩み抜いて決めたことであり、それしか自分のことを守ってあげられる方法がなかった。

あの選択が、間違いだったと思えば、あの日の自分を否定することになる。

それだけは、絶対にしたくなかった。