「べつにこの世界で単位が取れなくても関係ないんだから焦るなよ」

「でも、抜け出す方法なんてさっぱりわからないし、このまま一生ここにいるっていうことも考えられなくはないでしょ?」

「そん時はそん時で考えればいい。ほら」

蒼井は私の話をサラリと流して頭痛薬を手渡してくれた。

「それを飲んで家に帰れ。途中までなら送ってやる」

蒼井の優しさに触れながら、脳裏に残っていたのは、さっきまで見ていた奇妙な夢のことだ。

私が最後に手を伸ばしていたものは、人だった。雨の中で同じ制服を着ていた男女がうつ伏せに倒れていた。

顔は見えなかった。でも、なんとなく背格好からして、私と蒼井に見えた。

ドクドクと流れていた赤いものは、おそらく血だった。どちらのものかわからないけれど、思い出すだけで寒気がしてくる。

もしかして、あの光景って私たちの最後……。


「痛っ、なにすんの?」

前触れもなく、突然蒼井にデコピンをされた。

「お前がボーっとしてるからだろ。ほら、帰るぞ」

「う、うん」

彼は本当に私のことを送ってくれた。いつも早歩きなくせに、こんな時にはちゃんと私の歩幅に合わせてくれている。

私は蒼井といると安心する。

それがどうしてかなんて、今は説明できないけれど。