やわく、制服で隠して。

意識がゆっくりと揺り起こされるみたいに、あぁ眠っていたんだなぁって分かるくらいの感覚で覚醒していく。

まだまだ眠れそうなくらい、心地がいい。
深春は寝返りをうったのか、体が私のほうへ向いている。

顔にかかる髪の毛をそっとよけて、キスをした。
深春は起きない。
すやすやと気持ち良さそうに眠る深春に二回、三回とキスをした。

私だけの秘密みたいでドキドキした。

窓の外はまだまだ明るい。
勉強机の上の置き時計を見たら、十七時を少し過ぎたところだった。

二時間くらいは眠っていたことになる。
今頃みんなは旅館に着いた頃だろうか。
野外学習の班は深春と離れてしまったから、旅館の部屋も別々だった。
今こうして深春と二人で手を繋いで眠ることが出来る。

素直に幸せなことだって思った。
今まで知らなかった感情。
初めて失いたくないと思える人に出会えたこと。

今の私にとって深春はもったいないくらい素敵な女性だけど、私には深春しか居ない。

他の知らない誰かみたいに、深春じゃなくてもいいとか、そんな風には思わせない。
私には深春しか居ない。深春じゃなきゃ駄目なんだ。

もう一度、深春と一緒に眠ろう。二人だけの夜はまだ始まってもいない。
そう思って、深春の手を握り直した。

目を閉じて、深春の寝息に呼吸を合わせようとした時。

小さく、スマホの振動音が聞こえた。
ブー、ブーと一定の間隔で震えるスマホの音。

深春のスマホはベッドの傍のサイドテーブルの上。
光ってもいないし、目を凝らして見ても、震えてもいない。

繋いでいた手を離して、ベッドから少し体を乗り出した。
ベッドの下に私のスマホが転がっている。
最初にベッドに座った時に落としたのかもしれない。