やわく、制服で隠して。

「ね。これからどうしようか?」

深春がニコニコと聞いてくる。外に出るのはリスクが高い。
知っている人に会ったら、野外学習のことは知らなくても、こんな時間に学校に居ないのは怪しまれるだろう。

「んー。映画でも観る?」

「それならオススメがあるよ。」

深春がテレビ台にしているラックから、ディスクを一枚取り出した。
少し前に話題になっていた恋愛ミステリー映画だ。
私も観たかったけれど、タイミングを逃して観れなかった物だったから嬉しかった。

「深春。」

「あ、こういうの、好きじゃない?」

「ううん。そうじゃなくて。」

「どうしたの…?」

心配そうに私を見つめる深春に、私は言った。

「映画はやっぱり炭酸ジュースがいいな。」

深春は一瞬驚いた顔をしたけれど、そうだよねって笑って、グラスを持ってキッチンへ向かった。
コーヒーの味が残っている口で、チョコチップクッキーを齧った。

美味しい。でもやっぱり映画には塩味のお菓子と炭酸のジュースがいい。
深春が持ってきてくれたグラスにはストローも刺さっていて、またコーヒーに似た色だったけれど、一口飲んだら今度こそコーラだった。

「美味しい。」

「私も。」

美味しそうにコーラを飲む深春を見て、嬉しくなった。
やっぱり深春もジュースのほうが好きなんだって思ったら、自分だけが子供なわけじゃないって思えた。

深春が映画のディスクをプレイヤーにセットした。
部屋も暗くして、カーテンも閉め切ったら一気に映画館みたいになった。

二人きりの映画館。私と深春の呼吸音、映画の中の台詞だけが流れ続ける。

あんなに観たかった映画なのに、中盤からのストーリーは何も覚えていない。
テレビから流れ続ける映画を置いてきぼりにして、私達はずっとキスをしていた。

深春が私の名前を呼ぶ声だけが私の耳を支配した。
たまにクスクス笑い合って、テレビに視線を戻しても、すぐに深春のことが欲しくなった。

二人きりの時にだけ許される私達の愛情表現。
キスをしたり、手を繋いで歩くことだって、私達には許されないと思っていた。

同じ性別ってだけで、人を大切に思う気持ちは同じなのにどうして引け目を感じなければいけないのだろう。

世間がどれだけ理解を示し始めていても、この問題がどれだけ話題に取り上げられても、私達の周りではまだまだ浸透していない。

私だって突然芽生えた想いだ。
深春と出会う前は知らなかった感情だ。

恋は、感情の突然変異みたいな物だ。
何が普通で、当たり前かなんて分からない。

犯罪を犯してるわけじゃないのに悪いことみたいに感じなければいけないのは、なんて悲しいことなのだろう。

深春を好きな気持ちは本当だ。
この恋がイケナイことだってどれだけ言われたとしても、本当の恋をしたのは深春だけだよ。

「深春。ずっと一緒だよ。」

「好きよ。好き…。」

深春のキス。くちびるに、涙の感触がした。