やわく、制服で隠して。

「今頃みんなはバスで向かってるのかなぁ。」

「うん。二時間くらいかかるって言ってたね。」

深春が言ったことに相槌を打つ。
みんなとは違うことをしている私達。
親にも先生にも嘘をついて、二人きりだけの時間を過ごす。
特別なことをしている気持ちになった。

「ねぇ。深春。」

「ん?」

「深春はさ、今まで誰かと付き合ったことってある?」

深春がゴクッと一口コーヒーを飲んで、考える素振りを見せた。

「あるよ。」

「へぇ…。どんな人?やっぱり年上の人?」

「ううん。後輩。告白されて。」

「そうなんだ…。」

深春が年下と付き合っていたことは、あまり想像出来なかった。
雰囲気的には年上の男の人と付き合っている姿のほうがしっくりくる。

でもきっと、やっぱり年齢と精神面は比例しないのかもしれないし、比例していたとしても、深春は引っ張っていくほうが好きなのかもしれない。

「何で別れたの?」

「どこが好きなのって聞いたら、顔だって言うから。それって私じゃなくてもいいってことじゃない。」

「まぁ…でも…、深春の顔が好きなんだから、深春が好きってことだとは思うけど…。」

「まったく。」

深春が呆れたように私を見た。
真面目な目をしているから、私も目を逸らせなくなった。

「まふゆもその子もダメダメね。」

「ダメ?」

「地球上にどれだけの人間がいると思ってるの?世界にはそっくりさんが三人居るって言われてるくらいなのに、同じような顔なら一体どれだけ居るのか分かんないじゃん。」

「それはそうだけど。でもその学校内には…。」

「そうよ。学校の中ではね。ずっとその学校に居るのなら私しか居なかったかもしれない。でもそうじゃないじゃない。そこを出たら似た人との出会いはいくらでもあるし、もっと上だって。私じゃなきゃ駄目なわけじゃないって、一瞬で分かったのよ。」

「んー。確かにそうかもしれないけど。私はそこまで考えつかなかったかな。顔が好きって言われたら単純に嬉しいし。」

「まふゆはそれでいいのよ。」

深春は微笑んで、私の頭を撫でた。
なんだかむず痒くなって、誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。