路地裏を出て、深春は一軒の玄関の前で立ち止まった。

裏から見るのとは景色が変わったけれど、コンビニの向かいの家。
深春が動画を撮っていたベランダの家だって分かった。

「ベランダ貸してくださいってお願いしたの。お礼言わなきゃ。」

「なんで…ここなら動画が撮れるって分かったの?」

「学校からまふゆ達のことつけてたんだけど、路地裏に入っていった時、この家が見えたんだよね。イケるかもって思ったらもう体が動いてた。」

深春は悪戯が成功した子供みたいな顔で笑った。
元カレの時もそうだけど、普段は冷静であまり表情も変わらない。
そんな深春が急に無鉄砲になって、無茶なことも、これだと思ったら突発的に動く。

すごく危険なことでもあるし、関係の無い人に迷惑もかけているけれど、元はと言えば私が悪くて、なのに私の為にそこまでしてくれる深春のことが愛おしくて堪らない。

深春がインターホンを押した。
玄関の向こうから、はぁい、と穏やかな女性の声が聞こえてきた。
玄関のドアが開いて、立っていたのは身長の低いおばあちゃんだった。

「あら。あなた。」

「おばあちゃん。さっきは本当にありがとう。突然来て、ご迷惑をお掛けしました。」

「本当にありがとうございます。」

「この子が言ってたお友達?無事だったみたいね。良かったわ。」

「いきなり知らない子供がベランダを貸してくださいなんて、驚きましたよね。本当にごめんなさい。」

おばあちゃんは玄関の向こうから聞こえてきた穏やかな笑顔に似合う顔で微笑んだ。

「あなたの血相を見たらただごとじゃないって分かったわ。ベランダなんて減るものでも無し、大切なお友達を救えたのなら光栄よ。」

「おばあちゃん…。」

「あなた、この子、本当に緊迫した様子だったわ。知らない家に飛び込むほど、守りたいものがあるんだって伝わったの。大切にしなさいね。きっと一生の縁になるから。」

私と深春は顔を見合わせた。
おばあちゃんが、春がよく似合う顔で笑っている。

二人で深く頭を下げて、その家に背を向けた。

「深春。ごめんね。心配かけてばっかりで。」

「ほんとにね。」

深春は笑っている。
夜に向けて、外はどんどん暗くなっていく。
さっきからスマホが何度か震えていた。

ポケットからスマホを取り出してトークアプリを開いたら、アミから通知が来ていて、一通の写真には、私をグループから退会させたってメッセージが表示されていた。

そのまま、アミと、カホや他の子達をブロックして、ブロックのリストも削除して、スマホを鞄に放り込んだ。