やわく、制服で隠して。

「もう一度言いますね。これって、悪いことですよね?」

「だったら何だよ。」

トンガリ靴が深春に詰め寄った。深春は全然動じていない。真っ直ぐに男の顔を見ている。

「お兄さん達、ごめんなさい。私も動画、撮ってたんですよ。」

深春がポケットからスマホを取り出して、動画を再生させた。
私達が路地裏に入ってきてからの一部始終が撮影されていて、声は所々不鮮明だけど、映像はしっかりと残っている。

「このスマホ、壊したければどうぞ。まぁこれ、スマホなんで、既にデータがここに一個しか残ってないなんて保証はしませんけど。」

「みはるちゃーん。俺らのこと脅してんの?」

「はい。脅してます。」

キッパリと言い切った深春を、くちピとトンガリ靴が囲んだ。

「深春っ…!」

「私は脅しのつもりですけど、そういう物騒な言い方はしたくないので…そうですね。私達と取引しません?」

「取引?」

茶髪がくちピとトンガリ靴の間に割って入った。

「私の父、警視庁に勤めているんです。」

「は?」

男達が声を上げて、私も思わず声を出しそうになったけれど、グッと飲み込んだ。

「私はまだ子供だし、ここでどれだけ騒いだって、やっぱり男の人には敵いません。どうにかしようと思えば簡単にできるのに、お兄さん達は優しいですよ。」

深春がにっこりと笑った。男達は顔を見合わせたけれど、何も言わなかった。

「何もしないでいてくれるなら、私もお兄さん達に酷いことしたくないです。でも、そうじゃないのなら、私達は大人に頼るしか方法が無いんですよ。運良く父が警視庁に勤めている。それに今は立派なネット社会。調べれば簡単にお兄さん達の情報くらいどこかには落ちてると思いますし…この人のお父さんが市議会役員ってことが分かったみたいに。」

深春がスッとカホを指差した。
カホの肩がビクッと揺れる。拳を握り締めて俯くカホに、さっきまでの威勢は無い。

確かにカホのお父さんは市議会役員をやっていて、それを自慢していたし、後ろ盾にもしていた。

子供の世界ではそういうものだ。
社会の仕組みなんて分からないから、“とにかく凄そう”というものに従う習性がある。

でも本当はそうじゃない。カホのお父さんが無敵なわけじゃなくて、更には娘が不祥事を起こしたともなれば、一番叩かれるのはその父親なんだから。