やわく、制服で隠して。

粉々になったスマホのスクリーン。それでも尚、深春はグリグリとローファーでスマホを踏みつけた。

「ちょっと…!何して…!」

アミはパニックを起こして、深春の制服に掴みかかった。
襟元を掴まれた深春は、その腕を握り返して、アミを塀に押しやった。

「ごめんね。動画消してって言っても信用出来ないから壊しちゃった。はい、これあげる。」

深春は鞄から取り出した封筒を、アミに突きつけた。茶封筒とかじゃなくて、銀行とか郵便局で見るような、そこのATM特有の封筒だ。

「何これ…。」

「二十万円。あげる。新しいスマホ買い直してね。データは復元出来ないと思うけど、いいよね、別に?復元出来ないほうがいいでしょ?ね?そうだよね?」

アミはもう、それ以上言葉を発さなかった。
悔しそうに、でもそれよりも恐怖の感情が目には浮かんでいた。

他の二人も、深春と目を合わせないようにずっと俯き続けた。とばっちりを受けないように、何事も無くこの場を終わらせられるように。

カホの操り人形であり続けた三人は、深春によって簡単に糸を断ち切られてしまった。

「えー、アミ、許しちゃうのー?」

感情を揺さぶろうとしているカホの声も、もうアミには届いていない。
私がどれだけ言っても頑なに解けなかった洗脳が、こうもあっさりと解けてしまう。

言葉では理解出来ないくせに、物理攻撃された途端、身をもって実感する愚かさには怒りすら湧かなかった。

「カホ…さすがにマズイよ…。」

女子の一人がチラッと私を見て、ようやく事の重大さに気付いたみたいに言った。
深春の行動を眺めていただけの男達を、カホは退屈そうに見渡してから「もーいいや。飽きちゃった。」と言って、路地裏から出ようとした。

「まーだだよ。」

「え?」

歌うように言った深春を、カホが振り返った。
イラついているのが分かる。自分の思い通りにいかなくて、お人形達も全然自分の言うことを聞かなくて、カホは完全に冷静さを失っていた。