やわく、制服で隠して。

「あ、ひどーい。待っててって言ったじゃないですか。」

緊張感の無い、間延びした深春の声。
私達が裏路地に入ってきたほうとは反対側から、深春が入ってきた。

隅に固まっている三人の女子とカホには目もくれないで、深春は真っ直ぐ私達の所へ歩いてきた。

「近くで見たらちょー可愛いじゃん。」

トンガリ靴が嬉しそうに言って、今まで自分は関係無いって顔をしていたくせに、茶髪が近付いてきて、深春に言った。

「この子の友達?」

「深春!深春はいいからここから離れて!」

「あっはは!いいね、その友情ごっこからの、絶望したらどんな顔してくれんの?スゲェ見てみたいわ。」

別人みたいな表情をして深春を見る茶髪の顔はデジャヴだ。
あの元彼と同じ。優等生のふりをして、普通の大人のふりをして、女子高生で遊ぶことに悦を感じている顔。

「あれ?やっぱりあなたもこの人達と仲間なんですね?」

「仲間?」

「えぇ。さっき、まふゆが怪我させられそうになった時、止めてくれましたよね?でもそっかぁ。やっぱり仲間なんだ。」

まぁ、いいです、と呟いて、深春はアミのほうへゆっくり近付いた。

「ヒッ…。」

短く悲鳴を上げたアミを、深春はニコニコと見つめて、アミに手を差し出した。

「なッ…何…。」

「スマホ。」

「スマホ…?」

「スマホ、貸して。まふゆが犯されそうになってるところ、ずっと撮ってたでしょ。」

「撮ってなんか…!」

「撮ってたよね?」

深春は隣に突っ立っている女子二人に視線を移した。二人は横に一歩、深春から距離を取った。
後ろは塀になっていて、逃げ場は無い。

「撮ってたよね?」

もう一度深春に訊かれて、二人はコクコクと首を縦に振った。
深春がもう一度、アミを見て、ゆっくりとアミが握り締めているスマホを抜き取った。

「あっ…。」

アミの細くて震えた声は、バキッというスクリーンの割れる音に掻き消された。

「わぁー。やっちゃった。」

カホが他人事のように発した声は、どこか楽しそうだった。