やわく、制服で隠して。

「いーけないんだ、いけないんだー。せーんせいに言ってやろぉー。」

小学生が、周りをからかうような歌声。二度、三度とその歌声は路地に響いた。
シン、とした路地にその歌声だけが流れて、一気に奇妙な空間になったけれど、その声が深春の物だって、私には分かった。

「ちょっと、誰ぇー。怖いじゃん。」

カホがゆるゆると言って、辺りを見回した。
私を押さえつけていた男達も手を離してキョロキョロしている。

「おーい。ここだよー。コ・コ!」

楽しそうに響き渡った声は、私達の頭上からだった。
手を離されて解放された私は、しゃがんだまま上を見上げた。

コンビニの裏側になっている、その向かい。
一軒の民家。二階のベランダの柵越しに、手を振っている深春を見つけた。

柵の所には室外機だろうか?少し灰色に汚れた白い箱型の物があって、周りにはいくつかの鉢植え。
その隙間から深春がニコニコと手を振っている。

「誰、アイツ。」

「さぁ、知らなーい。」

興味無さそうに言ったカホに、アミが「棗さん…。」と呟いた。

「ナツメ?だぁれ?」

「まふゆのクラスの子。最近仲良くしてるみたい。」

「ふーん。じゃあ、あの子が私達の関係を掻き乱してるってことね?」

つまらなそうにしていたくせに、ニヤッと笑ったカホの顔に寒気がした。

「ねぇ、みんなー。私も混ぜてよ。」

深春がしゃがんでいたベランダから立ち上がって、柵を掴んでこっちを見下ろしている。

「へぇ。あの子も可愛いじゃん。」

くちピが深春を見上げてニヤニヤと笑った。
トンガリ靴は「こっち来なよ。」と嬉しそうに深春を呼んでいる。

「ちょっと待っててくださいね。」

深春がニッコリ笑って、私達に背中を向けた。

「深春!来ちゃダメッ!」

「まーふゆちゃんっ。大丈夫だよ、君のこともちゃーんと遊んであげるから。」

下品な笑みを貼り付けたまま、くちピはまた私の体に触れた。

「おい。ちゃんと撮ってるか?」

塀の隅で、アミが「うん。」って言った。声が震えている。
手にはスマホを持って、こっちに向けて構えている。動画を撮っているのだろう。後で“脅し”に使うのかもしれない。

くちピがリボンを巻いていない私のセーラー服の襟元に指をかけた。

「ラッキー。ファスナーじゃん。」

私の高校のセーラー服は被るタイプじゃなくてファスナー式だから、脱ぐのも簡単だ。
トンガリ靴に後ろ手に押さえられている。もがいても逃げられない。

「ねぇ、アイツと同じ制服だよなぁ?なんでリボンしてないのー?ま、手間省けてイイけど。」

くちピがファスナーに触れる。焦らすように私の目を見て、“勝ち”を確信している男は、ひどく満足そうだった。