やわく、制服で隠して。

「ちょっと!ちょっとまふゆ!」

一時間目が終わって、思った通りすぐにアミが私のクラスにやってきた。
教室の後ろのドアから大声で私を呼ぶアミの声が響いて、溜め息が漏れる。

アミの所へ向かう私を、深春が心配そうに見ていることが分かった。
その視線を受けていると、あぁ、合コンくらい行ってもいいかなって思えてくる。
深春だって私に、もっと、もっともっと嫉妬すればいい。

だけどそれも馬鹿な考えだって分かっている。
深春が私に興味を持たないことよりも、私と同じ感情を抱かないことよりも、失望されることが何よりも怖い。

「ちょっとまふゆ、どういうこと!?」

顔を合わせるなりアミはヒステリックになって私に言った。

「どういうことも何も…そのまんまの意味だけど。」

アミの顔を見ないまま、切っていたスマホの電源を入れた。
私の通う高校はスマホ禁止では無いけれど、授業中に鳴るのは注意されるし、今は通知が面倒臭そうだから電源を切っていた。

そう思ったけれど、通知は意外と少なくて、二件しか届いていない。

アミからの、うさぎが怒った顔のスタンプ。
カホの「は?」って一言だけのメッセージ。
この後には誰も送れっこ無い。

「カホ、すごく怒ってるよ。」

「そうみたいだね。」

「ねぇ、いい加減ふざけるのもやめてよね!」

「ちょっとアミうるさい。」

アミの声に周りが反応してチラチラと私達を見てくるのが、すごく嫌だった。

「今大事なのはカホのことでしょ。」

アミが私を睨みつけてくる。
そんなわけない。あの頃の適当で浅はかな生活は、もう大事なんかじゃない。
それが“裏切り”だとしても。
“恩”を仇で返していたとしても。

「アミ。こういうの、もう辞めなよ。」

「は?」

「良くないよ。私達まだ高校生なんだよ。そのうち取り返しつかないことになるよ。」

「何それ。なんでそんなこと言うの。」

「私、つい最近結構酷い目に遭ったからさ。バカで世の中のことよく分かってなかったけど、そういうのに逆らうっていうか、正しく生きていないとどっかでツケは回ってくるんだよ。」

「はっ…何それ。」

アミが小馬鹿にしたように鼻で笑った。
私の感情は動かない。届かないのならそれでいい。
自分の身に起きていないことを他人が理解するのは難しいことだって分かるから。