私の言葉にパパと深春が眉間に皺を寄せて、ママがまた私を抱き締めた。
深春のお父さんは深い溜め息をついて、彼は顔を上げて、「まふゆ…。」と、どういう感情なのか分からない表情で私の名前を呼んだ。
殺してやりたい…。
私の中に生まれた感情がどろりと体も思考も包み込んでいくみたいだった。
深く、深呼吸をした。
私が蒔いた種だ。私は冷静でいなくちゃ…。
「私にも…悪いところはあった。成人と未成年が付き合っちゃいけなかったし…。彼のことは許せないけど、私もママと同じ…。警察沙汰になんてなったら自分が何を言われるのか…怖い。」
「こいつを野放しにするってことだよ?他の子が同じ目に遭うかもしれないし、一番危険なのはまふゆなんだよ?」
「私に二度と近付かないって約束してくれれば…。」
「他の子はどうでもいいの…?」
深春の悲しそうな目を見た。私に失望したのかもしれない。
「深春…。私、今は知らない誰かの未来まで考える余裕が無いの…最低だって分かってる。深春が正しい。全部その通りだって思うよ。だけど私は今、自分に起きた事実だけが全てで、今後自分がどうなってしまうのか。自分の未来だけが怖くて、それをどうにかしたいって思ってる…。全然知らない人達が知りもしない私のことこんなに助けてくれたのに、私は自分のことばっかり考えてる。最低だよね。幻滅したよね…。」
小さな世界で生きている。世間がどうでも、周りになんて言われたって、自分が生きている世界が全てで、それ以上のことなんて考えられない。
彼の言った通りだ。私は小さな世界でしか生きられない。
「まふゆ…。ごめん。綺麗事だった。今苦しいのはまふゆなのに。分かってあげられてなくてごめんね…。」
首を横に振った。これから同じ気持ちを負う女の子が出てくるかもしれないのに、自分のことだけを守ったことが、自分自身を責め立てる。
パパはまだ警察に突き出すのことを望んでいて、全然納得していない顔をしていたけれど、当事者である私の気持ちを尊重してくれた。
「じゃあ…!」
全てが終わったと思ったのか、彼が顔をパッと上げて声を出した。その声を、深春が低くゆっくりとした声で遮った。
「チャラなわけじゃないから。」
「は…?」
深春が自分のスマホを取り出して、テーブルの真ん中に置いて、一本の動画を再生した。
ザワザワとした数人の話し声。
「…はるーっ!」
たぶん、深春を呼んだ、私の叫び声。
「誰か助けて、女の子が監禁されてます。お願い、誰か!」
深春の声。
ずっとドアの一片が映っていた画面が、室内に変わって、揺れながらリビング、寝室へと変わった。
動画は揺れて見にくかったけれど、“彼の行為”もしっかりと映っている。
ママが口元を押さえて肩を震わせた。
一際画面が揺れて、ずっと天井と、深春、彼の叫び声、私の嗚咽が再生され続けた。
「一生、まふゆの前に現れないで。再犯も絶対に許さない。私はあんたの人生なんて一瞬で終わらせることが出来るんだよ。」
「なん…だよこれ!盗撮だ!脅しじゃねぇか!」
「は?あんた、偏差値が高いってこと、やけに自慢してたみたいだけど、ほんとは頭からっぽなんだね。」
鼻で笑うような言い方をした深春に彼が掴みかかろうとして、深春のお父さんが抑えつけた。
「盗撮とか脅しとかさ。じゃあいいよ。分かった。やっぱこれ、警察に持っていこうよ。それで、この動画も犯罪かどうか決めてもらおう。」
深春がスマホを持って立ち上がった。
彼が必死に止めようとして、パパが来た時と同じように土下座をした。
「嘘です。嘘です!あなたは悪くないです。お願いです。誰にも言わないで…!」
「ほんっと…気持ち悪い男。この動画のこと、一生忘れないでよね。」
深春はそのまま玄関へと向かった。私も立ち上がって深春についていく。
ママとパパと一緒に深春のお父さんに深く頭を下げて、マンションを出た。
玄関のドアを閉める時、深春のお父さんが彼に突きつけた「退去命令」って声が微かに聞こえた。
深春のお父さんは深い溜め息をついて、彼は顔を上げて、「まふゆ…。」と、どういう感情なのか分からない表情で私の名前を呼んだ。
殺してやりたい…。
私の中に生まれた感情がどろりと体も思考も包み込んでいくみたいだった。
深く、深呼吸をした。
私が蒔いた種だ。私は冷静でいなくちゃ…。
「私にも…悪いところはあった。成人と未成年が付き合っちゃいけなかったし…。彼のことは許せないけど、私もママと同じ…。警察沙汰になんてなったら自分が何を言われるのか…怖い。」
「こいつを野放しにするってことだよ?他の子が同じ目に遭うかもしれないし、一番危険なのはまふゆなんだよ?」
「私に二度と近付かないって約束してくれれば…。」
「他の子はどうでもいいの…?」
深春の悲しそうな目を見た。私に失望したのかもしれない。
「深春…。私、今は知らない誰かの未来まで考える余裕が無いの…最低だって分かってる。深春が正しい。全部その通りだって思うよ。だけど私は今、自分に起きた事実だけが全てで、今後自分がどうなってしまうのか。自分の未来だけが怖くて、それをどうにかしたいって思ってる…。全然知らない人達が知りもしない私のことこんなに助けてくれたのに、私は自分のことばっかり考えてる。最低だよね。幻滅したよね…。」
小さな世界で生きている。世間がどうでも、周りになんて言われたって、自分が生きている世界が全てで、それ以上のことなんて考えられない。
彼の言った通りだ。私は小さな世界でしか生きられない。
「まふゆ…。ごめん。綺麗事だった。今苦しいのはまふゆなのに。分かってあげられてなくてごめんね…。」
首を横に振った。これから同じ気持ちを負う女の子が出てくるかもしれないのに、自分のことだけを守ったことが、自分自身を責め立てる。
パパはまだ警察に突き出すのことを望んでいて、全然納得していない顔をしていたけれど、当事者である私の気持ちを尊重してくれた。
「じゃあ…!」
全てが終わったと思ったのか、彼が顔をパッと上げて声を出した。その声を、深春が低くゆっくりとした声で遮った。
「チャラなわけじゃないから。」
「は…?」
深春が自分のスマホを取り出して、テーブルの真ん中に置いて、一本の動画を再生した。
ザワザワとした数人の話し声。
「…はるーっ!」
たぶん、深春を呼んだ、私の叫び声。
「誰か助けて、女の子が監禁されてます。お願い、誰か!」
深春の声。
ずっとドアの一片が映っていた画面が、室内に変わって、揺れながらリビング、寝室へと変わった。
動画は揺れて見にくかったけれど、“彼の行為”もしっかりと映っている。
ママが口元を押さえて肩を震わせた。
一際画面が揺れて、ずっと天井と、深春、彼の叫び声、私の嗚咽が再生され続けた。
「一生、まふゆの前に現れないで。再犯も絶対に許さない。私はあんたの人生なんて一瞬で終わらせることが出来るんだよ。」
「なん…だよこれ!盗撮だ!脅しじゃねぇか!」
「は?あんた、偏差値が高いってこと、やけに自慢してたみたいだけど、ほんとは頭からっぽなんだね。」
鼻で笑うような言い方をした深春に彼が掴みかかろうとして、深春のお父さんが抑えつけた。
「盗撮とか脅しとかさ。じゃあいいよ。分かった。やっぱこれ、警察に持っていこうよ。それで、この動画も犯罪かどうか決めてもらおう。」
深春がスマホを持って立ち上がった。
彼が必死に止めようとして、パパが来た時と同じように土下座をした。
「嘘です。嘘です!あなたは悪くないです。お願いです。誰にも言わないで…!」
「ほんっと…気持ち悪い男。この動画のこと、一生忘れないでよね。」
深春はそのまま玄関へと向かった。私も立ち上がって深春についていく。
ママとパパと一緒に深春のお父さんに深く頭を下げて、マンションを出た。
玄関のドアを閉める時、深春のお父さんが彼に突きつけた「退去命令」って声が微かに聞こえた。



