やわく、制服で隠して。

「大丈夫。大丈夫だよ。」

呟いた私を深春が見た。
横並びになっていた体を、私のほうへ向けて。

「駄目。一緒に行く。」

「本当に大丈夫だから。」

「嘘。昨日だって本当は大丈夫じゃなかったんでしょ?」

深春と目を合わせることが出来ない。本当は怖い。
でも、今怖がっていたら、彼を目の前にして別れ話なんて出来っこない。

別れようって言うだけ。ただそれだけ。
その一言で何も無かったように、私達は他人になる。簡単なことだ。

「本当に大丈夫だから。深春のこと、また待たせるわけにいかないし。」

「…じゃあせめて、途中まではついていくから。一人で行くの、怖いでしょ。」

決心が揺らぎそうだから深春の目を見たくなかったのに、深春の優しい言葉でやっぱり目を合わせてしまった。

「うん。ありがとう。」

「まふゆ。」

「ん?」

「私、最低なの。」

「どうしたの、急に。」

「ううん。後で…、このことが終わったら話すよ。」

「そう?分かった。」

深春が言った“最低”の理由は一つも分からない。深春に最低なところなんて無い。

だけど何かを話したそうで、けれど私の“今の状態”では話せないのだろう。

私ね、今なら、まふゆの為なら全部終わりに出来るから、だから何でもぶつけていいんだよ。
そう言いたかったけれど、その言葉もまふゆの隠し事も、今の私じゃ駄目なんだと思う。

「彼氏とのことが終わったら聞くね。」

「うん。」

今日の深春は髪の毛をポニーテールにしていた。
深春が動くたびに本当に馬の尻尾みたいにぴょんぴょん跳ねて可愛かった。

だけど髪型一つでガラッと雰囲気が変わる深春を見ていると、なんだか違う誰かと話している気分になってくる。

私は、いつもの深春が…。

正面に立つ深春の後頭部に手を回した。
ふわふわの白いシュシュの感触。そのシュシュをスルッと外す。
深春の髪の毛がふわっと下りて、いつもの深春になった。

「こっちのほうが好きだよ。」

深春がその場にしゃがみ込んで、膝に顔をつけて俯いた。髪の毛が地面に付いてしまいそうだった。

ありがとうって、消えかけの声が聞こえた。