やわく、制服で隠して。

十九時を少し回って、外は薄暗い。
五月に入ってからは、十六時になっても明るい日もあるけれど、十九時を過ぎれば景色は夜へと加速していく。

「深春…?」

彼氏のマンションを出て、少し歩いた場所にある自動販売機の前。
弱い灯りを背にして、深春が立っている。

「びっくりした。どうしたの?」

「幽霊を見たみたいな反応しないでよ。」

「その立ち方は勘違いされてもしょうがないよ。」

深春を見て、笑った。深春も笑っている。
なんとなく、寂しそうな顔で。

「どうしたの?」

もう一度訊いた私に深春が近付いて、そっと、抱き締められた。
外なのに、誰かに見られているかもしれないのに、全然嫌じゃなかった。

深春の匂いがする。私の体にまとわりついた匂いを消して欲しい。
全部…、深春のがいい。

「まふゆこそどうしたの。泣きそうな目してる。」

「私、臭くない?」

「臭くないよ。どうして?」

「何でも無い…。」

目を閉じて俯いたら、深春の肩におでこが触れた。
ちょうど同じくらいの身長差。目の前に深春の顔があって、恥ずかしかったから。

「何でここに居るの。」

「心配で、ついて来ちゃった。」

「もう二時間以上過ぎてるよ。ずっと待ってたの?」

「そこ。」

深春に言われて顔を上げた。
自動販売機から数メートル先にコーヒーショップがある。

「あぁ…。」

「ちょうどいい張り込み場所だった。」

珍しくおどけて見せる深春に、自然と笑い声が漏れた。

「それ、他の子にやったら怖がられるからやめなね。」

「まふゆだけよ。」

「ん…。」

苦しかった。
あんなに怖い思いをしたのに、深春にほぐされていく。苦しくて、愛おしい。

深春が私にくれる言葉や態度は、きっと“友達”だからだ。
深春はそういう子なんだと思う。
見た目よりもずっと愛情深くて、人を大切にする。

周りより少しだけ愛情深くて、勘違いさせちゃうだけ。

そう言い聞かせるのに、もしも深春のこの行為が“友達として”じゃなかったら。

自分が苦しいから。
助けて欲しいから。
そんな都合のいいことばかりを考えてしまうのかもしれない。

「私、やっぱり彼氏とは別れるよ。」

「何かされたの?」

深春の声がいつもより低くなる。
怒ってるんだって分かった。一部始終を話せば、このまま彼のマンションまで乗り込んでしまいそうだ。

「ちょっとね。やっぱりちょっと、普通じゃないのかもしれない。」

「だったら今から…!」

「ううん。今日は疲れちゃった。明日、もう一回会って話すよ。」

外がどんどん暗くなっていく。
もうすぐ梅雨に入るのに、夜になるとまだ少しだけ風が冷たい。

六月になってもう少ししたら、制服も夏服になる。
日中は暑い時もあるけれど、今この瞬間は、まだ信じられない気持ちになる。

吹き抜ける風が、足を冷たくさせる。
スカートの下からも風が入って、スカートをふわふわと浮かせている。