運動場側のフェンスまでやって来て、私と深春はそのフェンスを見上げた。

改めて見ると、そのフェンスは高いけれど、よじ登れないほどではない。
乗り越えたらそこに立てるようなコンクリートの部分があって、更に一段上になっている段差がある。

そこから先は、地上に真っ逆さま。
私達が今からやろうとしていることだ。

フェンスの前で私と深春は抱き締めあった。
風が吹くと少しヒヤッとするけれど、思った通り、深春の誕生日の日よりは暖かい。

深春は制服の下、お腹とスカートの隙間、背中とスカートの隙間から二冊のノートを取り出した。
深春のお母さんのあの日記帳だ。

「通りで。なんか硬いなって思ってた。」

深春はふふ、と笑って、その日記帳をフェンスの前に置いた。

「私とまふゆの遺書代わりよ。」

「うん。これが全部だもんね。」

深春が頷いて、空気をめいいっぱい吸い込むように深呼吸した。

最期まで、ママが帰ってくることは無かったし、電話一本すら無かった。
私も会いに行ったりはしなかった。
パパにも遺書は遺していない。

この日記帳を見れば、全てを悟るだろう。
ママは私という切り札を失くして、深春の両親は一生罰を背負って生きていけばいい。
おじさんのことを父親だなんて、最期の一秒まで私は思わない。

私のパパは、パパだけだよ。
親不孝者でごめんなさい。