やわく、制服で隠して。

「付き合おうって、まふゆが言ったの?」

「彼氏から…。受験が終わったら付き合おうって。」

深春が溜息をついた。何かを咎めるみたいな溜息。
諦めるとかじゃなくて、深春は怒っている。

「だって、その時まふゆは中学生じゃない。」

「でも高校生になったよ。」

「中学生も高校生も変わんないよ。」

怒っている深春を見ていると、私の中に沸々とした感情が芽生えてくる。
なんでそんなに口出しされなきゃいけないの、深春には関係無いじゃん、って。

「深春、大人みたいなこと言わないでよ。そうやって、ずっと大人ぶるの?」

「え?」

「私だってあと四年もすれば二十歳になるよ。深春よりも早く!大体、二十歳と三十歳は付き合っても結婚しても許されるのに、なんで今が未成年ってだけで許されないの。」

「それが…ルールだからよ。それを破ったら大人のほうが咎められるけど、まふゆだってなんにも言われないわけじゃない。ちょっとくらいは好奇の目に晒されるし、真実だって捻じ曲げられる。二人が付き合ってるって、親は知ってるの?」

「…言ってない。」

「だったら尚更だよ。親が認めていて、例えば結婚を前提にとかだったら許される。でもそうじゃないなら世間は許さないの。」

「世間なんて大袈裟なこと言わないでよ。たった一人、二人の恋愛じゃん。深春、ちょっと考えすぎだよ。」

「でも私達にはその小さな世界が全てでしょ。」

深春が、“なんにも無い”、空っぽの目をした。
怒りも悲しみも、何も無い。
ただ事実だけを告げる機械みたいに。空っぽの目だ。

「まふゆ。そんなに言うほど、彼のことが好きなの?」

「好き…?それは付き合ってるし…多少は…。」

「多少?周りになんて言われたっていいくらい?」

「分かんないよ、そんなこと…。」

「あのね、まふゆが最初に言ってた、車持ちなんてことは全然、特別なことじゃないの。一定の年齢になって、取ろうと思えば誰にでもチャンスはある。」

「別に車持ちが絶対条件じゃないよ?」

少し、鼻で笑ってしまったことを自覚して、自分が虚勢を張る為にそうしたことが、恥ずかしくなった。

「まふゆはさっきから彼氏のスペックの話しかしてないよ。少しだけ駄目なルールを犯してまで好きだって言うことも出来ない。彼だってまふゆが悲しい目に遭った時、自分がどうなってもまふゆを助けてくれるって自信、ある?」

「そんなこと…。いちいち考えてないよ…。」

「ねぇ、まふゆがそう思ってるのなら、彼氏だってきっと思ってるよ。JKブランドだって。」

「何でそんなこと言うの!?」