やわく、制服で隠して。

それから後のことは話さなくても、もう大体分かるわよね。

必要ならどうぞ。
この日記帳、貸してあげるわよ。
いらない?…そう。

深春が…、あなた達が小学生になるまで、私達家族は他県での生活を続けて、時々同級生の女子から冬子ちゃん家族の情報を貰っていたの。
ううん、“貰っていた”って言うより、“買っていた”わね。

そこのご主人ね、事業に失敗したらしくて。
お金に困っていたのよ。
たまに冬子ちゃんを監視して情報を流してくれないかって、そのたびにたった三万円以下のお小遣いを握らせてあげるだけで、彼女、喜んで引き受けてくれたわ。

その代わり、誰か一人にでも口を滑らせたら全額返金してねって誓約書まで書かせたりして。
ふふ。ふふふふ…あはははは。
ねぇ、おかしいでしょう。そう、まふゆちゃんは知ってると思うけど、この人、得意なの。誓約書。
ふふ…、あーおかしい。

え?金銭の受け渡しや誓約書はどうしていたのかって?
もちろん直接会っていたのよ。
他県って言っても同じ地方内だから。
その時は必ず棗くんが行ってた。

お小遣いが貰えるし、憧れだった棗くんにコッソリ会える。
自分が何をしているのか、旦那も誰も知らない。
秘密の取り引きで棗くんと繋がっている。
こんな素敵なアルバイトに選んでくれてありがとうって、その子お礼まで言ってた。

まふゆちゃん、どうしたの?震えてるわ。
…そうよね。何年間もずっと見張られていたなんて怖いわよね。
ごめんなさい。あなたには酷いことをしたと思っているわ。
冬子ちゃんが私を認めてくれさえいれば、こうはならなかったのに。

酷い母親よね。自分の娘よりも、自分の人生のほうが大事だったんだものね。
私も、冬子ちゃんも。

あなた達が小学生になるのをきっかけに、ようやく私達はこの町に戻ってきた。
さっき言った通り、細かく地域を調べてね。
だから同級生の女子のアルバイトも解雇。

急に困るって彼女は渋ったけれど、騒ぎを起こすようならって棗くんがちょっと脅したら素直に引き下がってくれた。

だからね、まふゆちゃん。
安心してね。それからは一切、その女子はあなた達家族には関わっていないから。

…あ、ごめんなさい。
私ったらナチュラルに嘘をついてしまったわね。
そうそう。いけない。
まふゆちゃんの高校受験のことを教えてくれたの、あの女子だったわね。