やわく、制服で隠して。

翌年の二月。
私は深春の出産を無事に終えた。安産だった。

しわくちゃの顔で大きな産声を上げる娘をこの腕に抱いた時、なんて小さいのかしら、自分よりもうんと小さいこの子にも心臓があって、精一杯生きようとしている。

そう思うとお腹の中に居た時よりも何倍も、何倍も愛しさが込み上げてきたわ。

立ち会い出産だった。
ウンウン唸る私の手をずっと握ってくれていた棗くんは、産まれた娘の頬をそっと撫でて、涙を流して「君にそっくりだ。」って言った。
「こんなにしわくちゃなのにそっくりだなんて失礼ね。」って私は微笑んだと思う。

私と棗くんの計画は大成功だった。
娘は産まれた瞬間から私達の人生にとって“大成功”だった。

ちゃんと、冬子ちゃんの娘と同級生になれる。
あと二ヶ月もすれば冬子ちゃんの娘は一歳になるのに変な感じ。

今ここに“妹”が誕生したことも知らないで、彼女もきっとすくすくと立派に成長してくれるはずよ。

いつかきちんと運命の出会いを果たす日まで、この手で何としてでも守り抜くわ。

深春。
私と棗くんは、娘にそう名付けた。
春はもう少し先で、深春が産まれた日もまだまだ寒い日だった。

なのに“深春”だなんて、夏生まれなのに“冬子”になってしまった冬子ちゃんみたいな名前だけど、ちゃんと意味があるのよ。

まふゆちゃんならもう気付いているかしら?
そうよ。由来は冬子ちゃんの旧姓。
“浅倉 冬子”。

浅い、冬。

深春も気付いた?
ふふ。天邪鬼みたいな名前でしょ。
深い、春。

冬子ちゃんの名前をクルッと反対にしてみたのよ。
我ながら傑作だと思うわ。

まぁ。深春ったら。
親をそんな目で見るのはやめてちょうだい。
私はね、あなたを愛してた。心の底から愛してるわ。

本当よ?
…え?冬子ちゃんのことを抜きにしても愛しているかって?

意地悪言うのね。
私がもしも冬子ちゃんを好きにならなければ、周りが言う“普通の恋愛”をして、他の男の人との子どもを産んでいたら、あなたは今ここに居ないのよ。

まふゆちゃん、あなたもね。
きっとこの世に存在していない。

全部が決められた運命だった。
私が冬子ちゃんを愛したことも。
全てに意味があって、必要なことだったのよ。