やわく、制服で隠して。

二人とも、高校の頃の日記までしか読んでいないのよね?
“こっち”のほうにそのことも全部書いてるから、てっきり全部知った上で話を聞いているんだと思っていたわ。

さっきも言ったように、二十三歳の九月、冬子ちゃんの妊娠が発覚した。
冬子ちゃんは絶対に産むつもりだったし、棗くんも喜んでくれると思っていた。

でも違った。
その報告を受けた数秒後、棗くんは冬子ちゃんに笑顔で別れを切り出した。

この頃、冬子ちゃんのご両親は二人が交際していることはまだ知らなかったの。
もう社会人なんだし、男女交際に親が口出しすることも無いでしょうけど、冬子ちゃんは棗くんのことを隠していた。

娘だから、今までの親の言動から色々と想定していたのね。
冬子ちゃんは地元に戻ってきた時に棗くんと同棲したかったけれど、ご両親に怪しまれないように、絶対に反対されない状況を作れるまではって、実家で暮らし続けていた。

「何で?親のことなら大丈夫よ。棗くんは学歴もあるし、一度は私と同じ企業に勤めていたんだもの。私は“この子”がお腹の中で成長していけばいずれは働けなくなるけれど、棗くん、退職しても収入はしっかりあるじゃない。何より子どもができたってなれば反対なんて絶対に出来ない!だからお願い。別れるなんて言わないで。」

懇願する冬子ちゃんの言葉は、彼には届かなかった。

「ごめんね、冬子。でもこれで終わりじゃないから安心して。」

「終わりじゃないって…?」

「この絆は絶対に切れないよ。だって親子だから。」

「どういう意味?だったら別れる必要なんて…!」

「もっと特別な物を、必ず君にあげるから。ありふれた物なんて君にもあの子にも似合わない。」

「あの子って誰。ねぇ…、まさか…。」

「冬子。答えを急かすのは君の悪い癖だ。秘密は多いほうが楽しいだろ?生きてさえいればいつか真実は明るみに出る。僕達は絶対に終わらない関係を手に入れることが出来るから安心して。」

彼氏が居ることも知らずに、突然妊娠を報告されたご両親はどんな気持ちだったかしら。
棗くんは多額の慰謝料を支払った。養育費も支払い続けるつもりだったけれど、それは後々、冬子ちゃんのほうから断られたの。
まふゆちゃんの今のお父さんと結婚することになったからね。
支払い続ける義務はあるけれど、冬子ちゃんのほうからそれを絶ったの。

まふゆちゃんのお父さんは、あなたの血縁上の父親が主人だということまではご存知無いわ。
事情は知っているけれど、父親が誰かまでは話していないみたいね。
きっとすごく驚くでしょうね。