やわく、制服で隠して。

それから棗くんが教えてくれたことは衝撃的だった。

冬子ちゃんが最初に私を嫌っていた理由。
それはね、棗くんの好きな人が、私だったから。

冬子ちゃんと棗くんはね、高一の時も同じクラスだったの。
その頃から冬子ちゃんは棗くんのことが好きだったみたい。

だけど高二でクラスが離れてしまった。
私と棗くんは、高二で初めて同じクラスになった。

冬子ちゃんは棗くんのことを諦めきれなくて、告白したらしいの。
けれど、私のことが好きだからってフラれてしまった。
それがきっかけで、私の知らないうちに、私は冬子ちゃんの“嫌いな人”になってしまったのね。

私はその事実を聞いた時、嬉しかった。
私は入学式の日に冬子ちゃんに一目惚れしたけれど、ずっと同じクラスにはなれなくて、ずっと一方的に“ファン”でいるしか無かった。

でも、冬子ちゃんも私の存在を認知していたなんて。
それが負の感情だとしても、誰よりも強く冬子ちゃんの中に存在できていたなんて、本当に嬉しかった。

冬子ちゃんにとっては想定外だったでしょうね。
こんなに嫌っている人間が、まさか自分のことを好きになるなんて。
しかも同性。棗くんは棗くんで私のことを好きなままだったし。

冬子ちゃんにとって、棗くんが自分と同じ大学を受験することは願ったり叶ったりだった。
近くに私も居ない。同郷出身者は二人だけ。
夢のような四年間だったって、彼女、言ったらしいわ。

大学在学中、今度は彼のほうから告白をして、二人は交際を始めた。
冬子ちゃんにとっては奇跡だった。
また私の知らないうちに、棗くんと冬子ちゃんの運命の歯車は回り出していた。

その奇跡を、もう“奇跡”って呼べないくらい、夢みたいなことは重なるもので、二人は同じ企業に就職が決まって、しかも二人揃って地元に戻ることになる。

冬子ちゃんのご両親は厳しかった。
その厳しさはもちろん交友関係にまで及んでいたし、当然、高校生までは男子と付き合うことだって許されていなかった。

それでも棗くんのことが好きだから、一世一代の想いで告白したのに私を理由にフラれるし、何がどうなったのか、その“嫌いな女”は自分に執着してるし。

そんな冬子ちゃんに次々と舞い込む“奇跡”は、冬子ちゃんの人生を変えていった。
女性としても、母としても。

棗くんから贈られる冬子ちゃんへの愛が全て偽物だったこと。
悪魔の計画が虎視眈々と遂行されていたこと。

冬子ちゃんへの本物の愛は、私しか持っていなかったのに。
ずっとずっと…ずっと。
その愛を蔑ろにして、無い愛を本物と見間違えたからバチが当たったんだわ…。
可哀想な冬子ちゃん。

まふゆちゃん。
今更言及しなくったって気付いてると思うけれど、あなたのことよ。
冬子ちゃんが妊娠していたのは。

あなたの本当の父親はこの人。
あなたと深春は、“同性”だからじゃない。
“姉妹”だから、恋人同士にはなれない。
法律上では、ね。