冬子ちゃんね、主人に捨てられてからすぐに実家ごと引っ越してしまったの。
今はご実家がけっこう遠くにあるから、この町の出身だったなんてびっくりしたでしょう。
あら、でもまふゆちゃんもお母さんの出身校は知ってたわよね?
え?冬子ちゃん、親戚の家から通ってたなんて言ってたの?親戚は本当に近くに…、居ないの?
まふゆちゃんったら騙されやすいのね。気をつけたほうがいいわよ。
ふふ、冗談、冗談。
冬子ちゃんのご両親が出来るだけ主人から引き離すこと、冬子ちゃんの療養とせめて子どもだけは無事に産めるように、遠くに離れていってしまったの。
でもね、やっぱり産まれてみれば、“あの男の子なんだ”って、ご両親はあまり子どもを可愛がってはくれなかったって、冬子ちゃん、電話越しに嘆いてた。
そうやってわざわざ遠くに引っ越したのに、冬子ちゃんはまたこの町に戻ってきた。
それも戻ってきたのも、出産を間近に控えた頃よ。
理由は、そう。
結婚をすることになったから。
私達の同級生で冬子ちゃんと仲良しだった子が居てね。
会社の素敵な先輩を紹介するって、半ば強引に勧められたらしいわ。
いよいよ出産するって妊婦に対して、このタイミングで男性を紹介するなんてトリッキーな子よね。
でもね、男性は冬子ちゃんと何度か連絡を交わして、二時間以上もかけて、他県に住む妊婦に会いに通ったの。
不思議なくらい冬子ちゃんに惹かれていたのね。
その気持ち、分からなくもないけれど。
お腹の子どもが誰の子どもでもいい。
結婚して欲しい。この子を僕との子どもとして産んでくれないか。
男性は何度も何度も冬子ちゃんを説得して、そして折れたのは冬子ちゃんのほうだった。
現実的に、父親が居たほうがいいし、冬子ちゃんも寂しかったのね。
棗くんに対する怒り、憎しみ、未練。
そういったものを断ち切るきっかけをずっと探してた。
ただ、彼の住む町は、あの忌わしい町。
その土地は嫌。いつどこで子どもの父親に再会してしまうか、ひょっとしたら私にも会ってしまうかもしれないし。
でもね、その頃、私と主人はその町には居なかった。
私達も引っ越しをしていたのよ。
そんなに遠くではないけれど、深春は憶えているでしょう?
小学校に上がる前まで住んでいた町。
私達が引っ越しをした理由はもちろん、冬子ちゃんの警戒を解いて、この町に連れ戻す為よ。
私の目の届かない場所に居るなんて耐えられない。
そして冬子ちゃんとご主人を結びつけた同級生に根回ししたの。
あの人達が付き合っているなんて聞いてもいないし、二人ともこの町には居ないわよ。安心して帰ってらっしゃいって。
なんでその同級生は簡単に言いなりになったのかって?
言ったでしょ。“ナツメくんはモテるんだ”って。
今はご実家がけっこう遠くにあるから、この町の出身だったなんてびっくりしたでしょう。
あら、でもまふゆちゃんもお母さんの出身校は知ってたわよね?
え?冬子ちゃん、親戚の家から通ってたなんて言ってたの?親戚は本当に近くに…、居ないの?
まふゆちゃんったら騙されやすいのね。気をつけたほうがいいわよ。
ふふ、冗談、冗談。
冬子ちゃんのご両親が出来るだけ主人から引き離すこと、冬子ちゃんの療養とせめて子どもだけは無事に産めるように、遠くに離れていってしまったの。
でもね、やっぱり産まれてみれば、“あの男の子なんだ”って、ご両親はあまり子どもを可愛がってはくれなかったって、冬子ちゃん、電話越しに嘆いてた。
そうやってわざわざ遠くに引っ越したのに、冬子ちゃんはまたこの町に戻ってきた。
それも戻ってきたのも、出産を間近に控えた頃よ。
理由は、そう。
結婚をすることになったから。
私達の同級生で冬子ちゃんと仲良しだった子が居てね。
会社の素敵な先輩を紹介するって、半ば強引に勧められたらしいわ。
いよいよ出産するって妊婦に対して、このタイミングで男性を紹介するなんてトリッキーな子よね。
でもね、男性は冬子ちゃんと何度か連絡を交わして、二時間以上もかけて、他県に住む妊婦に会いに通ったの。
不思議なくらい冬子ちゃんに惹かれていたのね。
その気持ち、分からなくもないけれど。
お腹の子どもが誰の子どもでもいい。
結婚して欲しい。この子を僕との子どもとして産んでくれないか。
男性は何度も何度も冬子ちゃんを説得して、そして折れたのは冬子ちゃんのほうだった。
現実的に、父親が居たほうがいいし、冬子ちゃんも寂しかったのね。
棗くんに対する怒り、憎しみ、未練。
そういったものを断ち切るきっかけをずっと探してた。
ただ、彼の住む町は、あの忌わしい町。
その土地は嫌。いつどこで子どもの父親に再会してしまうか、ひょっとしたら私にも会ってしまうかもしれないし。
でもね、その頃、私と主人はその町には居なかった。
私達も引っ越しをしていたのよ。
そんなに遠くではないけれど、深春は憶えているでしょう?
小学校に上がる前まで住んでいた町。
私達が引っ越しをした理由はもちろん、冬子ちゃんの警戒を解いて、この町に連れ戻す為よ。
私の目の届かない場所に居るなんて耐えられない。
そして冬子ちゃんとご主人を結びつけた同級生に根回ししたの。
あの人達が付き合っているなんて聞いてもいないし、二人ともこの町には居ないわよ。安心して帰ってらっしゃいって。
なんでその同級生は簡単に言いなりになったのかって?
言ったでしょ。“ナツメくんはモテるんだ”って。



