やわく、制服で隠して。

まぁ!深春ったらそんな顔しないの。

クズってどういうことかって?
そのままの意味よ。
…まふゆちゃんに知られるのは恥ずかしいかしら?

でもしょうがないわ…。真実だもの。
それにね、「この事」を話さないのなら、もう何を話しても意味が無いのよ。

ありがとう。まふゆちゃんは聞いてくれるのね。
深春は?そう。分かったわ。

じゃあ、お父さん。
話すわね。

…その日、持ってきた少しの荷物を片付けながら、今日からここで暮らすのかって、まだ実感が湧かずにいた。

家財道具はほとんど売ってきたから、私が持ってきた荷物は本当に少なかった。
必要な物は棗くんの家にあるだろうし、私が持っている物で棗くんの生活に必要な物なんて無いと思ったから。

高学歴で顔もいい。
性格も穏やかだし、頼まれればスパイみたいな馬鹿なこともやっちゃうような人だけど、“私には”優しい。

こんな人が何の取り柄もない、同性の女の子に執着しているだけの私に結婚しようなんて言っている。
正気かしら?

不思議で堪らなかったけれど、どうやら棗くんは正気で、本気らしい。

一通りの片付けが終わって、夜。
“退職祝い”に棗くんはフレンチをご馳走してくれた。

これからこんな生活をしていくのかしら?
私、こんなことを続けていけるほどの貯金は無いし、やっぱり働いたほうがいいのかしら?

そんな心配を見透かしたように、棗くんは笑って言ったの。
君は何も心配しなくていいからね。好きなことをして、僕の妻として家に居てくれればいいんだよって。

でも私は冬子ちゃんのことが好きなのよ。
冬子ちゃんよりあなたのことが好きになることなんてきっと無いわ。
そう言ったら、それでもいいって言うの。

本当におかしな人。
そんなことをして何のメリットがあるのかしら。
でも、もしかしたら、私が冬子ちゃんに思うことと同じなのかもしれない。

ただ傍に居てくれればいい。
嫌われていても、口を聞いてくれなくても、目の前に居るだけで心が救われる。

そういうことかしら?
でも、他人からそういう風に想われるのは冬子ちゃんみたいな人間の特権だ。

そこに在るだけで象徴になる高嶺の花。
冬子ちゃんは愛される為に生まれてきたマドンナだ。

だからやっぱりこの人が考えていることはよく分からなかった。
…もう、お父さんったら。さっきから笑ってばかり。

えぇっと、そう。それからね、棗くんは言ったの。

「なんにもしてくれなくていい。でも一つだけ条件があるんだ。」

「条件、って?」

「うん。言っただろう。絶対に切れない絆をプレゼントしてあげるって。」