もちろん冬子ちゃんはずっと私のことは警戒していたけれど、私はもっと先の将来のことを見据えていたから、ずっと大人しくしてた。

だんだんと冬子ちゃんの警戒心も薄れていって、卒業する頃には気にも留めていないようだった。
相変わらず口は聞いてもらえなかったけれど、棗くんが自分と同じ大学を受験することに対しても何も思っていないみたいだったし、好都合ではあったわね。

嫌な感情でも向けてもらえないのは寂しかったけれど。

卒業式の日、教室を出ていこうとする冬子ちゃんを呼び止めて、この卒業アルバムを差し出したの。
最後のページのフリースペースのところにメッセージを書いて欲しいって。

冬子ちゃんは私のことなんて見えていないみたいにスッと横をすり抜けて行っちゃったわ。
ひょっとして私、自分が気付いていないだけで本当は死んでしまったんじゃないかしら?なんて思ったわ。

そのまま冬子ちゃんと棗くんは上京して、私は地元で二番目の偏差値の大学に進学した。

時々棗くんからの連絡を受けて、冬子ちゃんがどのサークルに入っただとか、案の定大学でもマドンナだとかって話を聞いてた。

私は冬子ちゃんの報告ばかりを楽しみにしていたのに、お父さんったら電話をかけてくるたびに、今度の連休には帰省するからとか、夏になったらまた一緒に水族館に行こうとか、早く私に会いたいとか、そういうことばかり言うのよ。

もっと真剣に冬子ちゃんの情報を集めてよって叱ったら、返事だけはいつも立派だった。

こんな調子で大学生活はあっという間に過ぎていった。
棗くんが長期休暇とかで帰省してくればたまに会ったりしていたけれど、大学の四年間で冬子ちゃんには一度も会えなかった。

私が地元の大学に進学したことを知っていたら、きっと意識的に避けられていたのね。
冬子ちゃんは一度も帰省しなかった。

それでも私は満足だった。
嫌な感情だったとしても、冬子ちゃんは私のことを忘れていない。
そう思うことができて幸せだった。