「悪いことって、どういう意味だ?」

「…最初はハッキリとは分かんなかったけど、母さんが過去にまふゆのお母さんと知り合いで、その頃に何か追い詰めるようなことをしたんじゃないかって。」

「追い詰める?私が?」

「まふゆのお母さんが、母さんの存在を知った時、それから私が母さんの娘だと知った時、まふゆのお母さんの反応は普通じゃなかったって…。私と二度と関わらないように学校を編入するか退学しなさいって。そんなことを自分の子どもに言うなんて普通じゃないよ。」

おばさんが、卒アルの中のおじさんの写真に触れて、「変わらないわね。」と微笑んだ。

確かにおじさんもおばさんも、写真の顔とあまり変わらない。
ヘアスタイルが変わったり、子どもっぽさが抜けたくらいだ。

二十二年。
まだ二十歳にもなっていない私には、その年月は随分と長く感じるけれど、人を変えるほどでは無いのかもしれない。

きっと感情の移り変わりも。
それだけの長い時間があれば、人の気持ちなんてものは簡単に変わってしまいそうだけど、その想いが強ければ強いほど、時間が解決するって問題では無いのかもしれない。

それこそきっと、深春のお母さんは人生を賭けている。
いつかまた出会えると信じて。
その人生を全て、ママに捧げていたんだ。

「あなたは本当に…。」

おばさんが私を見た。
懐かしむような、悲しむような、どこか嬉しそうな顔で。

「本当に、冬子ちゃんによく似てる。」

「母さん…。話して。私達、この日記帳も少し読んだの。ママがどんな気持ちで何をしてきたのか、少しは知ることが出来た。でも全部は読めなかった…。苦しかったからよ。」

「苦しい?それは同情?それとも嫌悪かしら。」

自分を嘲笑するように、おばさんは笑った。
おじさんが「潮時だな。」と言って、おばさんの背中をさすった。

「どこまで読んだの?」

「ワンピース…。」

呟いた私をおばさんが見て、頬笑んだ。

パラパラと日記帳をめくって、おばさんはあのワンピースのページで止めた。

「本当に、私ったら。どうかしてるわね。」

おじさんが、ふと小さく笑った。
その異常さを知っていても、一緒に生きていくことを選んだ理由は、今からもっと深春を苦しめることになるかもしれない。

「まふゆちゃんがもう少し髪の毛を伸ばして、黒く染めて、同じようなワンピースを着たら、本当に冬子ちゃんみたいになるんでしょうね。そしたら私、また恋をしてしまうかもしれない。」

「母さん!」

深春が厳しい口調で、声を張り上げた。
「冗談よ。」とおばさんは笑ったけれど、多分、冗談なんかじゃない。

おばさんは今もママに恋をしている。
あの頃のママを忘れることが出来ないまま。
今でもずっと。