リビングに入ると冷房がよく効いていて、あんなに不快だった汗がスーッと引いていった。

ソファではおじさんがニコニコと笑顔を貼り付けて、私に「いらっしゃい。」と言った。

あんなにお世話になった人なのに、今は少しだけ、ほんの少しだけ恐怖を感じるのはどうしてだろう。

深春のお父さんには本当に助けられたし、恩人なのに。
今はあんまり関わりたくないような気すらしてきてしまう。

「こんにちは。」

私は言いながら、促されるままソファに座った。
深春が隣に座って、おばさんがジュースの入ったグラスを置いてくれた。

「ジンジャーエール。よく冷えてるから美味しいわよ。」

「ありがとうございます。いただきます。」

ジンジャーエールを一口飲んだ。
喉の奥でシュワシュワと弾ける炭酸が心地よい。
外が暑すぎたせいか、冷えた炭酸のジュースは本当に美味しかった。

けれど、一口飲んだらそれ以上は飲めなくて、私はそっとグラスをテーブルに置いた。
胸がドキドキして、これ以上は喉を通らない感覚がする。

確かに喉は渇いていたけれど、どうしてか、体が僅かに拒否反応を起こしている。
深春はジンジャーエールを一口も飲まなかった。

「それで、聞きたいことって?」

おばさんもソファに座ってから、ゆっくりと言った。
深春は俯いていた顔を上げて、ソファから立ち上がって、「ちょっと待ってて。」って言って、リビングを出ていってしまった。

深春がリビングに戻ってくるまでの二分か三分くらいの短い時間。
私は気まずくて体をこわばらせて、肩が凝りそうだった。

戻ってきた深春は、おじさんとおばさんの前に、あの卒アルと日記帳を置いた。
二人は顔を見合わせて、「懐かしいわねぇ。」と、暢気な感想を言った。

「何で深春がこれを?」

「どうしても知りたいことがあって。父さん達の寝室とか書斎を調べたの。ごめんなさい。」

おじさんは「うーん。」と短く唸ってから、頭を掻いた。

「悪いことだよな?それは。」

「えぇ。でも母さんが…、もしかしたら父さんも、悪いことしてきたのかもって思ったから、知りたかったの。」

「悪いこと?」

懐かしそうに卒アルをめくっていたおばさんが、手を止めて、深春を見た。
ページは深春の両親と、ママの写真が載ったあのページが開かれている。