翌日。
深春の家に約束の十分前に着いたのに、深春は玄関前のガーデニングの花壇の傍に座って私を待っていた。

「どうしたの。暑いでしょ。」

言いながら、私も隣に座った。
深春は私の肩に頭を預けて、「家の中に居るほうが息苦しくて。」って言った。

「大丈夫?」

「うん。結構…、大丈夫じゃないかも。」

よしよしと深春の頭を撫でてあげる。
深春は目をつむって、私にされるがままだ。
額にそっと触れたら汗をかいている。
同じくらい、私も暑くて、額にも背中にも、胸の谷間辺りにもじっとり汗をかいている。

でも深春がこのまま動かないのならそれでもいいと思った。
熱中症になろうが、脱水症状になろうが、そんなことはどうでもよくなってくる。

それでもこんなに儚い時間でさえ簡単に壊される。
背後でガチャッと玄関のドアが開く音がして、「何してるの。早く入りなさいよ。」って、深春のお母さんの声がした。

私の肩から頭を上げて、深春がゆっくり振り返った。
それから両手で目元を拭うような仕草をしてから、立ち上がった。

私も立ち上がって、おばさんに頭を下げた。
やっぱり暑さにヤラれていたのか、少し立ちくらみがした気がした。

「まふゆちゃん。いらっしゃい。待ってたわ。」

おばさんが私の肩に両手で触れて、それからスッと腕全体を撫でるように、手が下に下りていった。
こんなに暑いのに、何故かゾクッとする。

おばさんの目は“普通”じゃない。
絶対に、自分の娘の友達を見る目じゃない。
私を見ているようで、おばさんが見ているのは“ママ”だ。

過去の、少女の頃のママ。
おばさんが愛して愛して、狂うほどに愛していたママの姿を、私に見ているのだろう。

「母さん、辞めて。早く入ろ。」

深春がおばさんの手を払い除けて、私の腕を掴んで家の中に入っていった。
すごく冷たい声をしていた。

おばさんは「まぁ。深春ったら。何を怒ってるのよ。」とか言いながら、後についてきた。