やわく、制服で隠して。

「まふゆ。ごめんね。お待たせ。」

深春がトイレから戻ってきた。口元にハンカチを当てている。

「大丈夫?顔色悪いよ。」

「んー。ちょっと気分悪くなっちゃって。」

深春が苦笑いする。
私は開いていた日記帳を閉じた。

「今日は終わりにしようか。もう帰ろ。休んだほうがいいよ。」

日記帳を深春に返して、私はドリルや筆箱を片付け始めた。

「まふゆ。」

「ん?」

深春が椅子に座って背筋をキチッと伸ばしながら言った。

「明日、私の家に来ない?」

「深春の家に?」

「うん。ちょっと早いけど、十時くらい。明日は親が二人とも家に居るんだって。実はさっき電話してきたの。卒アルや母さんの日記帳のこと、話した。真実を知りたいって言ったら、明日、私達に話してくれるって。」

急展開だった。
まさか「日記帳を見た」とは言えるわけないし、全ての出来事はこの文字から読み取るしかないと思っていた。

けれど、“本人達”の口から聞けるのなら、それ以上のことは無い。

「お願い…していいかな。」

「うん。」

私と深春は、机の上で手を握り合った。

私達が思っていることはきっと同じだ。
私の祖父母が、深春のお母さんに突きつけた、「病気」、「幸せになれない」という言葉。

その言葉は何年もの時間を経て、その娘達にのしかかっている。

「私は…。深春を好きなままでいたい。」

深春はコク、コクと頷いた。
泣きそうな目をして。
私と深春の未来に、この恋は在り続けないと、解ってしまったような顔をして。

「嫌だよ。深春。」

「大丈夫。コレは、母さん達の話。私達にとっては物語に過ぎないでしょ?大丈夫だから。ね?」

指の先につるりとした感触が残っている。
大きく広がった茶色い染み。

日記帳の中でお守りのように大切に保管し続けて、ママを愛していると叫び続けた深春のお母さんはどんな気持ちだったのだろう。

本当におばさんだけが悪だったのか?
ママを愛してしまったから、出会ってしまったから、おばさんはおかしくなってしまったのか。

その感情を“悪”と一言で言ってしまうには、おばさんの感情や願いが解りすぎて、苦しかった。