やわく、制服で隠して。

「深春が知ってること、教えて。」

「…大丈夫?」

「うん。何を聞いてもママとの関係がこれ以上悪化しようも無さそうだし。」

苦笑いした私を見つめていた深春は、そっと瞳を伏せて、小さい声で「違うよ。」って言った。

「深春…?」

「違うの。まふゆとおばさんの関係も心配だけど…。まふゆは…私を嫌いになるかもしれない。」

「深春を?どうして?」

唐突な深春の言葉に笑ってしまった。
だって、これはママと深春のお母さんの問題で、深春は何も関係無いはずだ。
深春を嫌いになる理由なんて何も無いのに。
深春は話の先に、ひどく怯えていた。

「私が…母さんの…。母さんと父さんの娘だから。」

「おじさん…?」

深春はこくんと頷いた。
机の上で握り締められた深春の手が小さく震えていることに気が付いた。

冷房はよく効いているけれど、寒いというほどでは無い。
深春は明らかに怯えている。
その深春の手に、自分の手をそっと重ねた。

「まだ何も知らないから何も言えないけど。深春を嫌いになることは絶対に無い。約束する。だから、聞かせて?」

深春は唇を噛み締めた。
重ねた手のひらの下で、深春の手にギュッと力が入る。


深春が私の手の上に、更にもう片方の手のひらを置いてから、そっと両手を離した。
そのまま、鞄から取り出したのは一冊の古い日記帳と、卒業アルバムだった。

卒業アルバムは濃い赤茶色で、金色のラインで縁取りされている。
真ん中に刻印された校章のマークと学校の名前。

その高校は県内でも学力がとても高いことで、今でも有名な学校で、ママがその高校出身なことは知っていた。
中学の頃は、祖父母によくママは優秀だったのにとなじられたことがある。

この卒業アルバムを深春が持っているということは、深春の親のどちらかも、この高校出身だということ。

そう言えば、親の出身校の話なんて、私と深春には関係無いし、したことが無かったなって改めて思った。

「私のママ、この高校の卒業生なんだ。ママは優秀だったのに、私にはその遺伝子が受け継がれなかったって、じいちゃん達によく言われてたな…。」

卒業アルバムにそっと触れた。
表紙をめくる。古くなっているからか、ハードカバーの表紙はわずかにキシッと音がした。

「同級生だったんだ。まふゆのお母さんと、うちの両親。」

「え?両親?」

「うん。父さんも母さんもここの高校出身ってことは知ってた。でもまふゆのお母さんもだったなんて知らなかったからびっくりしたよ。」

深春に出会う前にこのアルバムを見せてもらったことはある。
多分、深春も。

けれどこのアルバムに並ぶ顔は自分の親以外はまったくの赤の他人で、一度や二度見ただけの写真の顔なんて憶えていない。
ましてや旧姓なんて知りもしないし、ピンポイントで会話に上らない限り、知り得ないことだったと思う。