やわく、制服で隠して。

夏休み。
七月中は、ほとんど図書館で過ごした。

私達は部活もしていないし、アルバイトもしていない。
これからはお小遣いにも困るかもしれないから夏休みはアルバイトをしてみようかなって思ったけれど、実際に探してみると十六歳を雇ってくれそうな所は全然無かった。

生まれて初めて広げる求人情報誌には、馴染みのファストフードやコンビニ、アクセサリーショップとかの店名と、有資格者を希望する聞いたことも無い企業名がズラッと並んでいた。

学校の授業だってまともな態度で受けられない私が“仕事”なんて出来るのか。
求人情報誌を見ているだけで心が折れた。

宿題、宿題と言い訳するように心で繰り返しながら、私は図書館に通っている。
深春も一緒だし、好きなタイミングで休憩出来るし、顔を上げれば深春が居るし、絶対にこのほうが最高だ。

ドラマや映画でよく観る、本棚の陰で人目を盗んでキス、なんてことはしない。
物語の中で見るほど図書館は人が少ない場所じゃない。

どのジャンルの本棚のラインにも、意外と人は結構居て、特に夏休み期間中の昼間は学生が集まっていた。

私達はいつも決まった机で宿題をこなした。
十二時を過ぎる頃に、どちらかが空腹を訴えて、ファストフードかファミレスに行って昼食を摂る。

それからまた図書館に戻る日もあれば、近くの港に行って船が行ったり来たりするのを眺めたり、映画館の前まで行って、観たい映画無いねって引き返したりした。

特別なことは何も無かった。
二人で過ごせるなら何も無くて良かった。
こうやってずっと、平凡な日常を続けていけるだけで、きっと私達は誰よりも幸せだった。