やわく、制服で隠して。

「まふゆは多分、調べられないと思う。」

「どうして?」

深春は言葉を選ぶようにゆっくりと言った。
出来るだけ私を傷つけない言葉を選んでくれていることは分かった。
けれどそれが無理なことも分かった。

どんな言葉を選んでも、私の家族の暗い部分はもう隠せない。
言葉にすればするほど、現実を突き付けられるだけだ。

「まふゆのお母さんがその様子だと、きっと部屋からも滅多に出てこないでしょ…。」

「…うん。」

「お風呂とか何かのタイミングで出たとしても、外出は滅多にしなさそうだし、調べるだけの時間は稼げないと思う。話なんて尚更出来そうな感じじゃないし。」

「そうなんだよね。多分もう、深春の名前を出しただけで…。」

「そうだよね。」

深春は悲しそうな目をした。
当たり前だ。
私だって深春のお母さんが私の名前を聞いただけで拒否反応を示しているとしたら、辛くて堪らない。

「だからさ、私が調べるよ。」

「でもどうやって?」

「決定的なことが分かるまでは父さんには言わないほうがいいと思う。母さんは料理教室とか習い事やってるし、家を空けることは多いの。夏休みで逆に私が家に居ることが増えるし、まふゆよりはかなりチャンスがあるよ。親の寝室とかアルバムとか調べてみようと思う。何か手掛かりが見つかるかも。」

絶対に聞こえるはずは無いけれど、深春は窓をきっちり閉めて、声をひそめて言った。

「探偵みたいだね。」

呟いた私に、深春も「ワクワクはしないけどね。」と苦笑いした。

校内の見回りをしていた教師に見つかって、私達は教室を追い出された。
勝手に冷房をつけていたことも注意されたけれど、私達は素直に謝った。

外はまだまだ猛暑だ。
校門までの道が陽炎で歪んで見える。

「こんな酷い暑さなのに、よく走ったり出来るよね。」

深春が部活動生達を見ながら溜め息混じりに言った。

「ほんとに。」

歩くだけでも、立っているだけでも辛いのに、炎天下であんなに動き回るなんて信じられない。

「早く帰ろ。」

深春に手を引かれた。
頷いて、黙って歩き出した。

明日からの夏休み。
楽しい想像は、まったく出来ない。

でも深春が居る。
それだけでいい。それだけでいいから、これ以上奪われないように、強く強く手を握ったら、痛いよって深春は笑っていた。