徒歩五分くらい歩いただろうか。住んでいるマンションに到着した。

家賃10万の安い賃貸マンション…。高校生になる時に独り立ちして、そのまま二年間借り続けている。最近、このマンションを借りていた人が自殺してしまったので、事故物件となって、入居者は減ってしまったが、コミュニケーションがめんどくさい私にとっては好都合。

物心着く前に養子になって、家族というものを知らない私は、人との距離感も、感情を読み取ることすら難しく、コミュニケーションを取るたびに人が離れていくのを見て、段々と段々と、誰かと話すのがめんどくさくなって行った。

それでも寂しさは消えないから、物心着く前に自分の分身ともなり得る『天使と悪魔』を脳内で生み出した。

まあそれのせいで独り言してるヤバいやつと思われて、周りから人がいなくなるのだろうけど。

だから、双子をここへ連れてきたのは結構思いきったことだった。でもまあ、今のところ双子もコミュニケーションをとってくれていないから、私たちは似た者同士なのかもしれない。

ただいまと誰もいない室内に返事して、双子の靴をぬがせてやる。

双子の手を引いて、風呂場へと連れていく。終始オドオドしていた双子だったが、今は緊張で顔が強ばっているらしい。

吸収性の高いタオルで髪を拭いてやり、服越しから身体も拭いてあげた。お風呂には入れる?と尋ねると、片割れがブンブンと顔をふった。悪魔が『じゃあお前が一緒に入ればいいじゃねえか。一石二鳥ってやつだろ?』と、女の私に言ってきたので、天使にぶん殴らせた。

「まあ、私が服着ればいけるか…」

とりあえずそんな思考になり、二人のTシャツを脱がせようとする。

バシッと手を弾かれて、眠気もだるさを全部吹っ飛んだ。

「……え?どうかしたの?」

脱がせようとした片割れの肩が震えている。怯えたような目に涙を貯めている。

この状況を見ていた片割れが、片割れを抱きしめて後ろずさりをした。その片割れも、ビクビクと体を揺らし、防御の体制になっている。

『おい、体見てみろよ』悪魔にそう囁かれて、露出した足に目を移す。




ーーー傷。

外にいた時でも、今できたのでもないその傷は、足枷でもついていたかのように赤く熟していた。

「これ…どうしたの…」

言葉を促すようにそう囁くと、守られている片割れが涙を垂らす。守っている片割れが、ハッと思い出したようにズボンのポケットをまさぐった。