時間は流れ、今は4月の下旬。
 私はいつものように自分の座席について静かに参考書を読んでいた。
 時刻は正午をまわっていて、ちょうど昼休憩前最後の授業が終わったところ。
 とは言っても、担当教科の先生が出張に不在だったから自習だったんだけど。
 このクラスのメンバーで静かに自習するわけもなく、みんな自由におしゃべりしていた。
 特に、女の子。
 黒江さんと、晶くんの周りには女の子たちの輪ができていた。
 あそこまで人気だと、逆に大変だろうなあ・・・。
 一部の女の子はその輪には加わらず遠巻きに眺めているだけだったけど。
 その中には、この前私を呼び出した子たちもいた。
 あれから、あの子たちが私に何かをすることはなくなった。
 もしかしたら、いじめが激化するかもなんて考えながら憂鬱(ゆううつ)な気分で登校した私の心配は杞憂(きゆう)に終わったのだ。
 晶くん曰く、女の子たちに「注意した」のだそう。
 そう私に教えてくれた晶くんの笑顔がいつもより少し怖く見えたのは秘密。
 とにかく、好きで憧れの人からの「注意」は女の子たちには応えたのだろう。
 私とすれ違っても苦々しく舌打ちをするだけで、それ以上何かを言ってくることもない。
 そんなこんなで、私もなんとか平穏な日常を取り戻すことができた。

 「絢花」
 「里穂。来てくれたんだ」
 お弁当を片手にひょこっと顔をのぞかせたのは私の大親友。
 「絢花、一緒にお昼食べよ」
 「うん」
 机の上に広げていた諸々のものを急いで机の中にしまう。
 そして、二人同時にお弁当箱の(ふた)を開ける。
 「あ、そうそう。今日は絢花に伝えたいことがあって」
 「何?」
 口に運んでいた箸を止めて、里穂は私に向き直った。
 自然と、私の背筋もしゃんと伸びる。
 「なんと、私彼氏ができました~!」
 「え、えぇ!?」
 お相手は、馴れ初めは!?
 今まで「彼氏欲し~い」って口では言いつつも、告白だって全部断ってきたのに。
 誰なんだ、里穂のことを射止めたスーパー男子は。
 「ここの高校の3年生の先輩なんだけどね。バイト先が一緒で前からよく話してたんだけど、昨日告白されて。私もちょっと気になってたしそのままオッケーみたいな」
 そう語る彼女の頬は、こころなしかほんのり赤く染まっている。
 今まですべての告白を断ってきた里穂のことだ。
 「ちょっと気になってた」とは言っているけど、実際のところは里穂もその先輩のことが好きだったんだろう。