「っ、お前」
 フラ、とよろけたところを黒江さんが支えてくれた。
 硬い胸板が頬に当たる。
 「しっかり歩けよ」
 「すみません・・・」
 離れようとするけど、何故か体にうまく力が入らない。
 あれ、おかしいな・・・。
 「・・・・・・?お前、なんか熱い?」
 「ふぇ・・・?ん・・・」
 黒江さんは、私の額に自身の手を当てた。
 冷たい手が気持ちいい。
 「あっつ!?熱あるじゃねえか!」
 「え?熱・・・?」
 黒江さんの顔を見上げる。
 とはいっても物凄く目が悪いせいで黒江さんの表情はよくわからない。
 「・・・はぁ。勘違いすんなよ」
 「!?うわっ」
 突然体が地面から離れた。
 正しくは、黒江さんによって持ち上げられた。
 膝の内側と背中に大きな手が添えられる。
 そのせいで、私と黒江さんの顔の距離が一気に縮まった。
 心なしか、黒江さんの顔も赤い・・・?
 「こっち見んな」
 「あ、はい」
 顔を見つめていたらそんなことを言われてしまった。
 慌てて顔をそらす。
 ・・・え、待ってこれって。
 いわゆる『お姫様抱っこ』というものでは・・・!?
 え、えええええ。
 私なんかがお姫様抱っこされる日が来るなんて。
 しかもその相手が黒江さんだなんて。
 頭がうまく情報を処理しきれてない。
 でもなんだかすごいことになっていることだけは理解できて、もともと火照ってた頬が更に熱くなる。
 器用に長い脚を使って黒江さんは引き戸を開けた。
 そのまま二階へ続く階段を登る。
 一段一段登るときの揺れが心地いい。
 「おい、ドアは開けろ」
 「わかりました・・・」
 流石にご自慢の足でも開き戸のノブは回せないのか、私が腕だけ伸ばして自室のドアを開ける。
 迷わず黒江さんは私の部屋の中に入る。
 こんなことになるならもっと部屋を綺麗にしておけば良かった。
 他人に部屋に入られるなんて思ってもなかったから、もしかしたら汚いかもしれない。
 だらしない女って思われてるかも・・・!
 そんな私の心のうちなんか知る(よし)もない黒江さんは私を静かにベッドにおろす。
 「布団には自分では入れ」
 「はい・・・あの、ありがとうございました」
 布団にもぞもぞ入りながら出ていきかけた黒江さんにお礼を言う。
 ここまで運んできてくれたし。
 きっと、いや絶対私重かったよね。
 「・・・別に。あのまま共有スペースにいられても迷惑だし」