もちろん、中に入っていた大量の水は私めがけて落下する。
 結果、頭から水をかぶってびしょ濡れになってしまった。
 ・・・最悪だ。
 ポタ、ポタと髪の毛から水滴が地面に落ちる。
 「キャハハ!きったなぁい!」
 「じゃあこれ、片付けときなさいよ」
 ゴンッ。
 美香さんの投げたバケツが私の額に命中する。
 呆然としている私を一瞥して、女の子たちは去っていった。
 水を吸った服が重たい。
 えっと、メガネメガネ・・・。
 しゃがみこんで地面に落ちたはずのメガネを手探りで探す。
 水とは違う液体が額から流れる。
 おでこ、怪我しちゃったかな・・・。
 ・・・なんで私がこんなことされないといけないんだろう。
 私は何もしていないのに。
 行き場のない怒りが自分の中で膨れ上がる。
 目頭が熱くなった。
 泣くな。
 泣いたらさっきの女の子たちの言ったとおりになってしまう。
 せめてもの抵抗だ。
 あ、これかな?
 何か硬いものに触れた感じがした。
 持ち上げてみると、やっぱり私のメガネだった。
 ・・・レンズにヒビが入ってる。
 メガネの右目のレンズにヒビが入ってしまっていた。
 さっき落としたときに傷がついたんだろう。
 そんなメガネでも、ないよりマシだ。
 ため息をつきながらメガネをかけ直した。
 それとほぼ同時に、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
 とりあえず、保健室に行こう。
 こんなビショビショで教室に戻るわけにもいかないし。
 授業は無断で休むから、サボるっていう形になっちゃうけど仕方ないよね。
 
 ―――ガラガラガラ。
 保健室のドアを開く。
 授業が始まっていたからか、幸いなことにここにくるまでに学校の生徒とは遭遇しなかった。
 誰にもこんなひどい姿を見られないですんだ。
 「はいは〜い、どうしたの・・・って、本当にどうしたの!?」
 養護教諭の松尾先生が、私のことを見てギョッと目を見開く。
 まあ、誰だって驚くよね。
 ボロボロでビショビショの人間が室内に入ってきて、無反応でいろって言う方がおかしいし。
 「なんであなた、そんなに濡れてるの?」
 「・・・・・・」
 「しかも!おでこから血が流れてるじゃない!本当に何があったの?」
 心配そうに松尾先生が駆け寄ってくる。
 「・・・転びました」
 「え?」
 「一人で派手に転びました」
 「・・・本当に?」