「へ・・・?」
 おっと、あまりにも間の抜けた声が出てしまった。
 でもそれもしょうがないくらい、予想外の事が起こったのだ。
 「おおそうか、真白もやってくれるか」
 「はい」
 まっすぐ挙げられた晶くんの右手を見て先生が笑う。
 状況に上手くついていけず口をポカンと開けている私を置いて、市川先生は黒板にカツカツと私と晶くんの名前を書いた。
 ちょっと、私まだやりますなんて言ってないんだけど。
 むしろ辞退しかけたんですけど。
 え、何がどうなってこうなった・・・?
 クラスメイトも何が起きているのか理解できずに、ざわついている。
 「どういうこと・・・?」
 「なんで真白くんがあんな地味女と一緒に・・・?」
 「何かの気の迷い・・・?」
 「こんなことなら私が立候補していれば・・・」
 特に女の子。
 クラス中の視線が私に突き刺さる。
 視線の圧で、押しつぶされちゃいそう。
 教室内が静かに、けれども確かにピリついた。
 手をおろした晶くんと目があった。
 晶くんはにこやかに笑っている。
 いやいやいやいや、笑ってる場合じゃないよ。
 晶くんが何を考えているのか理解できない。
 「じゃ、あとはクラス委員の二人に任せた。決まった人の名前を用紙に記入してあとで職員室まで持ってきてくれ」
 それだけ言って市川先生は教室から出ていってしまった。
 先生がいなくなった瞬間、教室内が急にうるさくなる。
 「真白、お前何考えてんだよ?」
 「物好きなやつだなあ」
 物好きって・・・。
 本人真横で聞いてるんですけど!?
 あまりにも失礼な言い方ではないですか、私に対しても晶くんに対しても。
 でも、晶くんが何を考えてるのかわからないっていうところは首をぶんぶん縦に振って同意したい。
 何を考えての行動なんだ。
 考えれば考えるほど頭の中がこんがらがってくる。
 晶くんはみんなの質問にはノーコメントのまま立ち上がる。
 教室の前まで歩いて「桃瀬さん、こっち」と私を手招きした。
 反射的に「あ、はい」と頷いて立ってしまった。
 鋭い視線が背中にぶすぶす突き立つ。
 体に穴が開きそうだ。
 「僕が進行するから、桃瀬さんが黒板書いてくれる?」
 「・・・わかりました」
 まだ教室内は騒がしくて、とてもじゃないけどまともな話し合いができるような雰囲気ではない。
 晶くん、どうするつもりなんだろう・・・。