「はぁぁぁぁ〜・・・」
 「どうしたの、絢花。大きな溜息ついて」
 「里穂・・・」
 胸から上を机にペターッとつけたまま、目の前に座っている里穂の顔を見上げた。
 ちなみに、今里穂は紙パックのりんごジュースを飲んでいる。
 「まあ、ため息をつきたくなる気持ちはわからないでもないけど。やっぱり今からでもやめたほうが良いんじゃない?シェアハウス」
 「いや〜、まさかここまで人気だとは・・・」
 休憩時間、2年A組は他のクラスよりもだいぶうるさくなる。
 晶くんと黒江さんに話しかけようっていう魂胆の見え透いた女の子たちが一斉に押しかけるからだ。
 教室内では色んな種類の香水の匂いが混ざり合っている。
 窓を開けて換気したくなるくらいに。
 今だって、二人の席の周りは女の子たちで埋め尽くされている。
 二人の人気を舐めきっていた・・・。
 同居がバレたら、血祭りになることも十分理解できる量の女の子が二人の周りで甘い声をあげている。
 今だって、二人の行動や対応の一つ一つにファンたちからは黄色い歓声があがる。
 とは言っても、二人の対応は全然違う。
 あくまで紳士的ににこやかに女の子たちをいなしている晶くんに対し、黒江さんは終始不機嫌で無愛想そのものだ。
 それなのに、女の子は黒江さんがウザがっただけでも頬を赤くする。
 ウザがられてるのに、それで喜ぶなんて私には到底理解出来なさそうだ・・・。
 あそこまで行くと、二人もなかなかに大変だよね
 モテすぎるのも困るってことかぁ。
 良い教訓だ。
 無論、私には絶対必要のない教訓である。
 ―――キーンコーンカーンコーン。
 そんな二人を助けるかのように、予鈴が鳴った。
 流石にみんな、各々自分の教室に引き上げていった。
 超名残惜しそうにしながらだけど。
 これから休憩時間のたびにあんなカオスな状況になるのか・・・。
 何も事情を知らない人から見たら、芸能人が来たのかと思われるくらいのもてはやされ方だった。
 里穂も「そろそろ帰るね」と言って2年F組の教室に帰っていった。
 胸の前で小さく手を振って里穂を見送る。
 すると、背後から鋭い視線を感じた。
 「・・・・・・?」
 振り返ると、何人かの女の子たちが顔を険しくしながらこちらを見ている。
 ヒソヒソ、ヒソヒソと何かを言い合いながら。
 おそらく、私のような地味子が里穂の隣にいることに対して文句を言ってるんだろう。