昨日からつけっぱなしだったブラジャーのホックを外そうと、背中に手を回したところで・・・。
 「ふわぁぁぁあああ・・・」
 「・・・え・・・」
 「・・・・・・あ?」
 ガラッと、ドアの開く音がいつもより数倍大きく聞こえた。
 一歩、脱衣所兼洗面所のこの部屋に足を踏み入れたその男の形のいい目と、私の目が合った。
 それはもう、バッチリと。
 寸分の狂いもなく。
 私は固まる。
 魁吏くんも固まる。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 「・・・き、きゃああぁぁぁあああ!」
 沈黙の空間を切り裂いたのは、私の喉から出た信じられないような甲高い叫び声だった。
 多分、私がこれまでの人生で出した声で一番高かったんじゃないかな。
 朝早い時間だということも、気にしている余裕はなかったし。
 急いで、近くに置いてあったバスタオルを身体に巻く。
 み、見られた見られた見られた見られた!
 こんな貧相な体も、ひどい顔も、全部全部見られちゃった!
 魁吏くんは、私の悲鳴でようやく我に返ったようで「悪い」とだけ言ってピシャリと脱衣所の扉を閉めて出て行った。
 え、え、私、今半裸の状態を魁吏くんに見られたよね?
 裸にい限りなく近い状態を見られちゃったよね?
 え、どうして・・・。
 このシェアハウスでは、脱衣所のドアにはお風呂を使うときは『使用中』の札をかけるっていうルールがある。
 それもこれも、こういう風呂でのニアミスを避けるための決まりだ。
 ・・・といっても、私がここに住んでからできた決まりみたいだけど。
 要するに、私のための、私が安心して入浴できるようにという気遣い満載のルールなんだ。
 だから、こういうことは起きないはずなのに。
 それなのに、一体どうして・・・。
 ・・・・・・あ。
 そういえば、私、今日その札をかけた記憶がない・・・。
 う、うわああぁぁぁああ・・・!
 かんっぜんに私のミスじゃん!
 私が完全な痴女で、魁吏くんはただの被害者じゃん・・・。
 も、申し訳ない・・・。
 少し時間もたって、私の頭の中は恥ずかしさよりも申し訳なさと情けなさでいっぱいになってきた。
 ・・・と、とりあえず一旦気を取り直してシャワーを浴びよう。
 そしたら、頭も冷えるはず・・・!
 そう考えて、おそるおそる身体に巻きつけていたバスタオルを剥がして、下着も脱いで、生まれたまんまの姿になって私は浴室に入った。