「か~いりっ!」
 「!?」
 視界の端っこで誰かが親しげに魁吏くんに抱き着くのが見えて、私は勢いよく振り向いた。
 ・・・女の、子?
 私よりも少しだけ身長が低いくらいの可愛い服を着た女の子が、ぎゅーっとハグして魁吏くんの胸に顔を埋めていた。
 誰だろう、やけに親しげに魁吏くんのことを呼んでたし魁吏くんの知り合い?
 ・・・本当に、ただの知り合い?
 ただの知り合いが、こんなに親しげに出会い頭に抱き着いたりするかな?
 まさか・・・もしかして。
 顔はまだ見えないけど、服がおしゃれだし・・・。
 私よりもきっと魅力のある子だろうから・・・。
 いやいやいやいや、魁吏くんがそんな不誠実なことするわけないよねっ!
 うん、そうだ。
 きっと、魁吏くんなら大丈夫。
 一瞬の間にむくむくと私の中で膨れ上がった不安を、無理矢理ふりはらう。
 「・・・お前、もしかして那々実(ななみ)か?」
 「うん、だいせいか~い!」
 「つか、早く離れろ。暑苦しい」
 「え~、ひっど~い!」
 ベリッと魁吏くんが女の子を引き剥がしたことで、ようやく女の子の顔が見える。
 私の予想通り、その女の子はまだあどけなさを魅力として顔に残した可愛い子だった。
 「こんなところで会うなんて、すっごい偶然だね!あ、その本買ったんだ!私も魁吏の影響で読むようになったんだよね。ちょうど、私も買いに来てたんだ!ほんっとに久しぶり!」
 私の存在にまだ気づいていないのか、それともこんな地味子なんて眼中にないのか女の子は魁吏くんのことだけ見つめている。
 どうやら久しぶりの再会でテンションがあがっているのか、女の子はものすごく饒舌(じょうぜつ)だ。
 「あの~、魁吏くん・・・?」
 どういう風に魁吏くんに話しかけるのか正解なのかわかんなくて、なよなよとした情けない声で恐る恐る魁吏くんの名前を呼ぶ。
 そこでようやく、女の子は私に気づいたのかくるりと私のほうに体を向けて持ち前の大きな目で私のことをじっと見つめた。
 「・・・あなた、誰?」
 そっくりそのまま私が思っていたことを、ぶつけられる。
 別に怖い声だったわけじゃないけど、ちょっとだけ気圧されてしまった。
 「って、名乗るならまず自分からだよね!私は茶野那々実(さのななみ)、高校一年生です。魁吏との関係は~、仲良しの幼馴染って言ったら正しいかな?」
 「ただの腐れ縁だ。仲良しでもない」
 「魁吏、辛辣っ!そういうところ、昔から変わってないね」