「・・・別に。好きなだけ泣けよ」
 「魁吏くん、優しいね」
 今までの魁吏くんなら、舌打ちでもしそうなのに。
 泣きじゃくるのを止めないだけじゃなく、むしろ推奨(すいしょう)してくれるなんて。
 魁吏くんの優しさに触れて、私の涙もようやく底を見せた。
 「これからどうしよっか。魁吏くん、何か買いたいものとかってある?」
 映画は終わったわけだけど、この後すぐに帰るのはなんだか惜しい。
 もうちょっと、魁吏くんとの時間を長く楽しみたいな・・・。
 魁吏くんは、私の気持ちを汲み取ってくれたのか少しだけ考えた後「本屋」と答えた。
 本屋?
 それはまた、どうして?
 この大型ショッピングセンターには、もちろん本屋だってあるけど・・・。
 「小説。好きな作家の新作が、最近発売されたんだよ」
 「へぇ~」
 魁吏くん、お気に入りの作家がいるくらい小説好きなんだ。
 新発見だ。
 入ったことはないけど、魁吏くんの部屋にはたくさん小説が置いてあるのかな?
 今度一回、見に行ってみたい・・・かも。
 迷惑がられるかもしれないけど。
 映画の内容を軽く話し合いながら、一階フロアの本屋さんまで移動する。
 魁吏くんの買いたいって言ってた小説は、『新発売!』と可愛いポップがつけられて目立つように売られていたおかげですぐに見つかった。
 「あ、魁吏くん。私もちょっと、参考書見てきていいかな?先にお会計やっててもらっていいから」
 せっかく書店に来たんだから、良さそうな参考書が売られてないかチェックしとかないと。
 これぞ、ガリ勉の使命・義務というものだ。
 「俺もついて行く」
 「え?いいけど、どうして?」
 チェックしに行くだけで、買うと決まったわけじゃないよ?
 だから、先にもう魁吏くんはお会計を済ませればいいと思ったんだけど・・・。
 「・・・・・・」
 「?」
 魁吏くんは私の質問には答えず、周囲を威嚇(いかく)するかのように見渡した。
 まあ、いいや。
 魁吏くんと連れ立って、参考書や受験対策の本が置かれてあるコーナーまで行く。
 あの参考書、前にも見たことあるな・・・。
 あ、この本、この間買った本と同じ人が著者だ。
 参考書に夢中になる私を、何も言わずに魁吏くんは後ろで見守っててくれる。
 よし、決めた。
 この参考書、買ってみよう。
 参考書の山から一冊参考書を取って、魁吏くんに「決まった」と報告しようとしたとき・・・。
 「か~いりっ!」
 誰かが、魁吏くんの名前を呼びながら、魁吏くんに抱き着いた。