でも、私たちはなんにもやってない。
 恋人になる前と今で、なんにも変わってない。
 むしろ、恋人になる前のほうが色々壁ドンされたりとかお姫様抱っこされたりとか、物理的な距離が近かったと思う。
 私が奥手すぎるのもアレなんだけど、デートにすら行ったことがない。
 地味だし、奥手だし、こんな私だから魁吏くんも冷めちゃったのかな、とか。
 そもそも魁吏くんは本当に私のことを好きで付き合ってくれたのかな、とか。
 そんな考えがぐるぐると回っちゃう。
 「・・・やっぱり、私と魁吏くんじゃ最初から釣り合わなかったんだよ・・・」
 「絢花ちゃん、きっとそんなことないですよ!絢花ちゃんは可愛いし優しいし、嫌いになる理由がないです!」
 あまりにも私の雰囲気がずーんと沈んでいるもんだから、椿ちゃんが焦ってフォローしてくれる。
 可愛いし優しいし、っていうのは私じゃなくて里穂や椿ちゃんみたいな子のためにある言葉なんだよ。
 ああ、椿ちゃんに気を遣わせちゃって申し訳ない・・・。
 そんな私のうじうじ、どんよりにイライラした様子で、突然ずっと黙ってた里穂が「あー、もう!」と声を上げた。
 「絢花も、そんなことで悩んでるなんてほんっと馬鹿ね!」
 「ば、馬鹿!?」
 「そうよ!」
 馬鹿って、勉強だけが取り柄の私に言うのはちょっとひどくない!?
 「あのね、絢花はもっと愛されている自覚をしなさい!恋人らしいことができてないから何!?本当にしたいなら、絢花が勇気だして黒江のこと襲っちゃいなさい!」
 「襲う!?」
 「それに、黒江も黒江よ!私の親友を不安にさせるようなことして!やっぱりあの男に絢花を任したのが間違いだったんだわ!今すぐにでも喝をいれにいかないと!」
 「ちょ、ちょっと待ってよ里穂!」
 「里穂ちゃん、落ち着いてください!」
 鬼の形相をして立ち上がった里穂を、私と椿ちゃんでなんとかなだめる。
 里穂、怒ってる・・・。
 気持ちを落ち着かせるためか、何回かスーハ―と深呼吸をした後里穂は私に向き直った。
 「いい?いつまでも受け身のままじゃ、恋愛は絶対に進展しないの。ただでさえ、黒江は不器用なところがあるっぽいんだからなおさらよ」
 「な、なるほど」
 「本当に好きなら、絢花からも行動しなさい!今週の週末、まずはデートにでも誘ってみたら?」
 流石、恋愛マスターの里穂は言うことが違うし説得力も凄い。
 椿ちゃんも、隣で興味深そうに里穂の話に耳を傾けている。