「では、ここからは別行動ですね!」
 「え、あ、ちょ、椿ちゃん!」
 ちょっとだけ緊張しているのか、屋台の方まで戻ってきたあと椿ちゃんは早口でいうと晶くんの手を取って人混みに消えていった。
 ぽつんと、その場には私と魁吏くんだけが取り残される。
 やばい、二人だけになると余計にドキドキしてきちゃた・・・。
 「い、行っちゃったね」
 「・・・俺たちも行くぞ」
 「え!?」
 魁吏くんは聞き取れるかどうかわからないくらいの小さな声で呟いたあと、私の手を掴んで歩き出した。
 その歩くスピードはいつもより少し遅い。
 ・・・もしかして、浴衣で動きにくい私のことを気遣ってくれたりするのかな?
 なんて、自分に都合のいい考えが脳裏に浮かぶ。
 ・・・いや、きっと魁吏くんも浴衣を着てて動きにくいだけだよね。
 ダメだ私、最近なんでもかんでも自分にいい解釈をする癖がついちゃってる。
 というか、ずっと気になってたんだけど・・・。
 「・・・行くって、どこに?」
 おそるおそる尋ねると、ずっと動いてた魁吏くんの足がピタッと止まった。
 ・・・魁吏、くん?
 「・・・あのー、魁吏くん?どこに、行くつもりだったの・・・?」
 「うるせぇ」
 うっ、うるせぇ!?
 今魁吏くん、私にうるさいって言ったの!?
 聞いただけなのに!?
 魁吏くんの耳は、こころなしか赤くなってる。
 あ、もしかして・・・。
 「・・・特に、決めてなかったの?」
 「・・・・・・」
 この沈黙は、図星の沈黙であってるのかな?
 あってるなら、なんてわかりやすいんだ・・・!
 出会ったときは魁吏くんのことよくわからなかったけど、今ならだいぶわかるようになっているのかもしれない。
 「ふふっ、あははは!」
 「・・・おい、笑うなよ」
 あまりにもわかり易すぎる魁吏くんがなんだか面白くて、思わず吹き出してしまった!
 ジロリ、と魁吏くんが私のことを咎めるように睨むけど、全然怖くない。
 むしろ、なんだか可愛い。
 不思議だな、こんなに無愛想な魁吏くんを可愛いなんて思う日が来るなんて。
 人生、何があるかわからないもんだ。
 「ご、ごめんごめん。じゃあ、あそこの射的やろう!」
 全く怖くないけど、睨んでくる魁吏くんの視線をよけて射的の屋台を指差す。
 今度は私から魁吏くんの手を引いて、少し強引に射的の屋台の前に連れて行く。